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【someone vol.38】【Ah‒HA!カフェ】1秒の長さはどうやって決められている?

2017.03.01
【someone vol.38】【Ah‒HA!カフェ】1秒の長さはどうやって決められている?

時間の長さを定義するのに大切なことは,同じ周期をくり返す「正確な振り子」を探すことです。現在,最も正確な振り子として使われているのが原子の振動です。特定の電磁波のみを吸収するという原子の性質を利用し,「セシウム原子に吸収される電磁波が91億9263万1770回波打った時間」が「1 秒」と定められています。3000万年でたった1秒しかずれない,世界一高精度な時計です。
けれど,原子はとても繊細で,他の原子と触れるだけでも誤差の原因となります。私たちはさらに高精度の時計をつくるため,光の格子の中に原子をひとつずつ孤立させるアイデアを考えました。もともと研究を進めていたストロンチウム原子に光を照射し,原子を孤立させるのに最適な波長の光を探しました。そしてついに,卵が卵パックに収まるように,光の波のくぼみに原子をひとつずつ収めることに成功したのです。この「光格子時計」は160億年で1秒しかずれないという高精度を実現しました。宇宙の誕生からが138億年なので驚異的な正確さです。
この精度の時計では,時間以外のものが見えてきます。たとえば,相対性理論によると地面からの高さによって時間の進み方が変わるといわれています。実際に高さが15m違う場所に2つの時計を置くと,高いところの時計が1秒進むとき, 低いところの時計が0.0000000000000016秒だけゆっくり進むことを観測できました。高さを時間のずれで見られるのです。時計をたくさん置けば,月の引力による地球のゆがみ,地下の鉱物資源の存在なども見えるようになります。大げさではなく,時計の進歩で世界の見え方が変わる時代が近づいているのです。

取材協力:東京大学大学院工学系研究科 教授 香取 秀俊さん
香取創造時空間プロジェクトのHP:http://www.jst.go.jp/erato/katori/feature/
(文と構成・濱田 有希)