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【someone vol.38】【生き物図鑑 from ラボ】生まれた環境で「強み」を変える オオツノコクヌストモドキ

2017.03.01
【someone vol.38】【生き物図鑑 from ラボ】生まれた環境で「強み」を変える オオツノコクヌストモドキ

クワガタと同じ甲虫の仲間のオオツノコクヌス トモドキ。米粒大の小さなからだながらも,クワガタに似た立派な大アゴをもち,「オオツノ」の名の由来となっています。オスのみが大アゴをも ち,メスをめぐって戦いますが,勝負に負けたオスは4日間落ち込み,戦いから逃げ続けるというお茶目な習性ももっています。
彼らの武器である大アゴの「大きさ」は勝負を左右する重要な要素ですが,どのように決まると思いますか。親からの遺伝?それとも鍛えれば大きくなる?じつは,幼虫のときにエサを食べて体内に蓄えた栄養の量が強くかかわっています。
エサが豊富にある環境で大きく育った幼虫は大型の成虫となり,その大アゴの大きさは栄養に恵まれなかった小型のオスと比べて3倍以上も大きくなります。一方,小型のオスでは大アゴを小さくする代わりに翅を大きくして行動範囲を広げることで,その子どもたちはよりエサの豊富な環境で生活できるようになるのです。大型と小型の成虫はかたちが大きく違います。おどろくことに設計図であるDNAそのものが成虫のかたちを決めているのではなく,まったく同じDNAでも栄養環境に応じて設計図の使い分けができるのです。東京大学の小澤高嶺さんは,その使い分けに「エピゲノム」と呼ばれるしくみがかかわることを突き止めました。エピゲノムとは,環境に応じて柔軟に変化できる細胞の記憶のしくみのことで,設計図の使い分けのいわばスイッチの役割を担っています。
蓄えた貴重な栄養を大アゴに使うか,翅に使うか。仮にDNAの塩基配列ですべてが決まってしまうと,大きい大アゴの親をもつ子どもは,どんな環境でも栄養を大アゴを大きくすることに使うことになります。しかし生まれた環境によっては大きい大アゴが有利になるとは限らず,ときとして不利になってしまうことも。彼らは,環境に応じて変化させることのできるエピゲノムを駆使してどんな環境に生まれても生きていける強さを獲得してきたのです。 (文・栗原 美里)

取材協力:東京大学 大学院 総合文化研究科 広域科学専攻 特任研究員 小澤 高嶺 さん