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クロクサアリがヒトスジシマカ(メス)に与える影響/早稲田大学高等学院 理科部生物班
2019.01.10サイエンスキャッスル2018 最優秀賞受賞チーム紹介
関東大会最優秀賞
早稲田大学高等学院 理科部生物班
発表者名:並木 健悟
指導教員:中島 康 先生
虫への飽くなき興味が、「血の滲む」程の努力と発見へ繋がった
関東大会で会場を興味の渦に巻き込んだのは、九州大会、関西大会に続いての「虫」の研究だった。アリと蚊が一緒にいると蚊が死ぬという奇妙な現象に気づき、体を張ったサンプル集めから、原因を仮説立てて一つずつ検証していくテンポの良い発表、最後は高度な機器を使った成分同定など、聴衆は、ショートムービーをみているような感覚だっただろう。しかし、その後の取材で明らかになったのは、虫への深い愛と、スマートな発表とは裏腹な想像を超える実験量だった。
虫への純粋な興味から生まれた、初めての「研究」
カマキリ、クワガタ、カブトムシ、バッタ、果てはアリやアリの寄生虫、ゴキブリなど幼少から虫を飼育してきた並木さん。飼育していたカマキリの卵が孵化したため、子カマキリの餌として集めていたアリと蚊を見ていて「同じ空間にいると蚊だけが死ぬ」という奇妙な事実に気が付き、初めて「研究」をしてみたという。結果わずか1年半という期間で、クロクサアリの持つ「シトロネラールとギ酸の混合物が強い殺虫効果を示す」ことを発見した。「当初はアリの出す山椒のような匂い(=シトロネラール)が原因だと思ってました。でも予想に反する事実にぶつかり『え、一体なぜ?』と困惑と同時に不思議なワクワク感に襲われたんです」と語る。さらに研究を続け、シトロネラールとギ酸の混合気体が相乗作用で殺虫効果を示すことへ辿り着き、「面白い!」と研究の魅力を知ったという。
スマートな発表からは見えづらい、驚愕の実験量と創意工夫
後の取材で明らかになったのは「言われてみれば」な昆虫実験の難しさと、驚愕の実験量だった。例えばまず、実験サンプルの確保である。薮の中で自身の体で蚊を集め採取するのだが、夏が終わると蚊はいないし、冬になるとアリもいない。初年度はこれに気づかず、大幅に実験時間を失った。今は、実験で余った蚊を蚊帳にいれ、自分の血を与えて産卵させる。一ヶ月で約10倍に増えるため、常時50匹程度飼育しているという。さらに難しいのは、アリから出るガスを扱うという実験だ。アリは採取刺激ですぐにガスを出すため、その場で迅速に実験を行う必要がある。さらに、実験器具も閉鎖系でかつ一定量の気体流動がなければ殺虫効果を検証できない。だから、採取から飼育までほとんど独自に機器を開発した。さらにアリの同定方法まで専門家に確認し、1匹ずつ同定を行った。「種が違うとデータの信頼性が下がりますので実験後のアリは全て保存してます」というその量は膨大だ。「この子はなんでもないようにやってしまうんですが、他の子ではまず真似ができませんよ」と中島先生は苦笑する。「僕が一番詳しい生物はやっぱり虫なんで。大学でも虫の研究がしたいです」。蚊の殺虫剤に止まらない、「虫と人類の最適な関係性構築」を担うのでは、とそんな可能性すら感じさせるピュアな高校生が今年の最優秀賞であった。