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山を多角的に学び、ともに生きる術を導く

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 日本の国土の約7割は、木々に覆われた山で占められている。山地に暮らす人はいうまでもなく、町中に住む人も、子どもの頃の林間学校などで必ず足を踏み入れているだろう。それだけ、日本人にとって山は身近な存在なのだ。実際、日本の社会、文化、伝統の多くは山や森林に根ざしている。それにも関わらず、山を総合的に学ぶ学問は今までなかった。
そこで今回は、日本で初めて山岳科学という学問領域を定義し、山岳に特化した修士課程「山岳科学学位プログラム」を立ち上げた、筑波大学山岳科学センターの石田健一郎教授と津村義彦教授にお話を伺った。

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(左)石田健一郎 教授 と(右)津村義彦 教授

自然科学だけじゃない、山の研究

山での研究といったら、どのようなものを思い浮かべるだろうか。樹木や高山植物を対象としたり、ライチョウなど特 有の動物の生態を調べる研究などが想像しやすいかもしれない。しかし、山全体を理解しようとしたとき、実はさまざまな分野の学問が関連していることに気づく。隆起した地形の成り立ちを調べる地質学や鉱物学、生物の営みを調べる森林生態学、人の手で持続可能な森林をつくるための造林学、森林経済学、また土砂崩れなど災害対策を研究する土木工学、資源としての利用を考える観光学など、多岐にわたる学問のフィールドになっているのだ。
「山との付き合い方を考えていく上で、山全体を総合的に考える学問が必要だったんです」と、石田教授は言う。そこでつくられた学問が「山岳科学」だ。筑波大学の山岳科学学位プログラムでは、それぞれ異なる特徴を持つ4つのフィールドを活用し、山岳を様々な視点から学ぶことができる。

多様な山の側面を学べる森

4つのフィールドのうち最大のものは、長野県北部に位置する菅平高原実験所だ。教員も多く学生が駐在できる研究施設があり、主に生物科学、地球科学、農学などの分野における基礎研究が盛んに行われている。中でも、植物遷移の様々な状態を同時に観察できる森林が見ものだ。また標高が高いため、そこにしか生息できない生物の研究もされている。  また、敷地内には有形文化財である大明神寮があり、ボランティアの手で維持管理されている。彼らがガイドと なり、実験所の一部を使った自然観察会なども行われている。
一方、静岡県にある井川演習林は、少し毛色が異なる。 他の森に比べ圧倒的に土砂くずれの多い山であり、危険の多いフィールドだ。その特徴を活かし、災害に関する学習や防災についての実証研究の場として利用されている。こういう森があるからこそ、防災の技術も発展し多くの人の命が守られるのだろう。
他にも学部生の基礎教育や教員の研究場所として使われる、つくばのキャンパス内にある筑波実験林(通称、植物見本園)や、地域交流や国立天文台野辺山、信州大学野辺山ステーションなどの他施設と交流を深く持つ八ヶ岳演習林がある。同じ「演習林」でありながら、それぞれが豊かな個性をもっている。そしてそれらの個性は、様々な山の側面を知るために必要不可欠なフィールドなのだ。

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総合的な学びにより課題に挑む人材を育む

現在、日本の山林においては生物多様性の減少、多雨による土砂崩れの災害、林業の衰退、害獣の増加など様々な課題が浮き彫りになっている。しかもそれらは複雑に絡み合っているため、解決するためには幅広い知識が必要となる。
津村教授は「山とどう付き合うかを考えるために、多面的に知ることが必要です」と話す。山岳科学学位プログラムには森林生態学をはじめ砂防学、観光地理学、建築学、山岳宗教などの教員が携わっている。所属する大学院生は一分野の研究テーマを持ちながらも、それら多様な領域の授業や実習を通じて、総合的に山を学んでいくのだ。
研究という行為は、ある分野・領域において専門性を深めることで、新しい問いを立て、答えを見出していくものだ。それに加えて山岳という場で幅広い視点を得ることで、一分野を突き詰めるだけでは得られない切り口を発見することができるだろう。そこから、山岳域の様々な課題を解決する人材が生まれてくるはずだ。

写真提供 : 筑波大学山岳科学センター(一部、写真家・横塚眞己人氏)

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