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人類とプラスチックの 関係を再考する
2020.10.08昨今、使い捨てプラスチックの利用が環境への悪影響をもたらすという考えが社会現象にまで発展し、レジ袋の有料化やプラスチックストローの廃止といった動きが生まれてきた。一方で、新型コロナウイルスが蔓延する欧米では感染予防のために再び使い捨てのレジ袋利用が推奨され始めている。
1900年代初頭に初めて工業的なプラスチック(フェノール樹脂)生産が行われてから100年あまりが経つ。1950年には200万トンだった生産量は、2015年にはそのおよそ190倍の3億8100万トンにまで増え、包装材、おもちゃなど身近な製品の原料、自動車や家など大型構造物の内装などに利用されてきている。
軽くて丈夫でコストが安く、使い捨てれば衛生的にも良い。そうした便益と、環境負荷等の不便益の間でバランスをとりながら、持続可能な社会をどのように作っていくことができるだろうか。それを考えるためには、わかりやすい一側面だけを見るのでなく、関連する知識を学びながら、あるべき社会の姿を議論して続けていく必要があるだろう。
持続可能な炭素循環を実現するためには?
プラスチックは「課題」なのか
1950年から2015年までに生産されたプラスチックは83億トンとされている。そのうち、何らかの製品の形で使用中のものはリサイクル品も含めて26億トン。8億トンは焼却され、なんと49億トンは埋め立てや環境中への流出とされる(図1)。生産されたもののほとんどは、枯渇性資源である石油を原料としている。地中から化石燃料を掘り起こして作られたもののうち、57億トンがすでに社会の中で使われておらず、CO2やゴミになっているのだ。
そして今、この再利用されない廃棄分が大きな問題となっている。すでに1億5000万トンが海洋中を漂っており、毎年800万トンがさらに流出しているとされている。その一部は細かく砕けて5mm以下の小片であるマイクロプラスチックとなり、摂取した魚介の体内にも蓄積され始めている。また、漁網やポリ袋などが海を漂い、ウミガメなどの海洋生物に巻き付いたり、クジラに飲み込まれたりしている。
これらの問題を解決するために、プラスチック製品を根絶するべきなのだろうか?その答えは、否だろう。プラスチック製品は、スマートフォンのレンズや椅子、エアコンの筐体、飛行機の内装など、社会のあらゆる場所で使われている。軽くて丈夫で色も自在。添加剤を加えれば難燃性を持ち、安価に作れるこれらすべてを他の素材で代替するのは不可能だ。だからこそ今、私たちは従来の「生産・消費・廃棄」のリニアな仕組みではない、持続可能なプラスチック利用社会を描いていくべき状況にある。
図1 1950-2015年に世界で生産、利用、廃棄されたプラスチックの量
(保坂直紀、海洋プラスチック:永遠のごみの行方 株式会社KADOKAWA 2020年)
炭素の流れを掴む
持続可能な形を描く際に必要なのが、炭素(C)の循環を考えることだ。プラスチックを中心として炭素の流れを描いてみよう(図2)。従来は化石燃料として地中に埋まっていた炭素を掘り起こし、精製・変換してプラスチック製品になる。その一部は材料のまま溶かして再成型されるマテリアルリサイクルや、小さな分子にまで分解されてから再利用されるケミカルリサイクルを経て、再度製品へと戻っていく。しかしこれらのプロセスに回すには、特定原料の製品が、混ざり物のない状態でないといけないなど条件が厳しく、また必要なエネルギーも大きい。そのため、多くは焼却されて二酸化炭素(CO2)となり、大気中に放出されるか、埋め立てられたり流出したりして、プラスチック塊や小片として残り続けることになる。利用が推し進められている生分解性プラスチックも、微生物による分解のあとはCO2になる。
これまでは、社会の中で必要とされる量のプラスチック製品を賄うためには、化石燃料を材料にしないと足りなかった。これが課題の一つといえる。大気中のCO2を吸収して育つ植物から作られるバイオマスプラスチックの量を増やしていくことで、循環する矢印を太らせ、化石燃料への依存を減らすことができる。また生分解可能な材料が増えていけば、ゴミの量を減らしつつ、この流れを加速できるだろう。さらに、社会の仕組みや消費者の行動変容によりリサイクル量を増やせば、これも循環を太くすることに繋がるはずだ。
図2 プラスチックを中心に考えた炭素の動き
理想的な循環社会に近づけるか
炭素循環という視点で理想的な状況を思い描いてみよう。必要な材料は、全て植物由来の原料から作られる。それらが成型され製品化し、社会の中で一定期間使われる。使い終わったら製品の形態あるいは材料ごとに分別され、それぞれに適切なリサイクルに回される。農業や漁業の中で使われるものは、きれいに生分解されてCO2になる。また、汚染されたりしてリサイクルできないものは焼却され、CO2になって再び植物の体になる。そこからまた原料が作られていく・・・
大きなサイクルの中で、炭素がぐるぐると回るこの社会の姿は、現代のリニア型社会とは程遠い姿のように思える。ただ理想に近づいていくために、何ができるだろうか。次ページ以降では、アカデミアの専門家たちが今、どのような視点でこの問題に取り組んでいるかを紹介する。
※『教育応援 vol.47』から転載