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未来の子どもたちへどんな地球を残すか
2020.10.08未来の子どもたちへどんな地球を残すか
京都大学環境科学センター センター長・教授 酒井 伸一氏
「日本から世界へ、これからの循環型社会のあり方を発信していきたい」と語るのは、京都大学環境科学センターのセンター長である酒井伸一氏だ。プラスチック循環資源戦略(2019年)の策定に関わり、従来の大量生産・大量消費・大量廃棄という一方通行型(リニア)の社会構造から、資源を循環させるサーキュラー型の経済構造への転換を目指す。
持続可能な状態をつくる指針「 3Rプラス原則」
日本は廃棄物対策として2000年に循環型社会形成推進基本法を制定し、世界に先駆け3Rの概念を発信してきた。3Rとは、使い捨て社会から脱するための基本的な姿勢として、Reduce(発生抑制)が最も望ましく、次がReuse( 再使用)で、Recycle(再生利用)が3番目に続くという考え方である。ただし、人間の管理下を離れたプラスチックの海洋・環境中への排出量の増加や石油などの枯渇性資源への依存状態が続く今、3Rのみでは不十分だと酒井氏は考える。そこで、Renewable(再生可能性)として、非枯渇性資源(太陽光、風力、波力、生物)の活用の推進を、そしてRecovery(回収)として熱化学変換によるエネルギー回収、海洋や海岸等のプラスチックごみ回収を組み込んだ3Rプラスの概念(図1)を提案している。この概念のうち、とくに再生可能性の考え方は、2019年に策定されたプラスチック循環資源戦略の草案で採用されており、環境政策として動き始めている。
社会全体を捉えたシステム構築が不可欠
Reduce、Reuseの動きとして多くの人に関わるのが、2020年7月に全国展開となったプラスチック製レジ袋の有料化だろう。その先駆けとなったのが、各地域の地方政府、事業者、市民団体の間で協定を交わし2007年前後から実施されてきた有料化の取り組みだ。京都市の場合、これにより有料化を導入した10店舗合計のレジ袋使用枚数は、実施前の年間約3920万枚から約6分の1の約650万枚に減少し、協定を結んだ事業者のマイバック持参率も20%から70%へと上昇した。ただしマイバッグは丈夫にするため、より多くのプラスチックが使われている。ファッションのように多数のバッグを買い揃えると、レジ袋を1年分使うよりも多くの材料を使用することになりかねない点は注意が必要だ。
またRecycleにおいてはペットボトルの回収は社会全体として進んでいるが、他のプラスチック製品は原材料が一定でなく、今は一部が鉄の高炉の還元剤として再利用されるなどに留まる。とはいえ消費者が原材料ごとに仕分けするのは現実的でなく、「素材を反映した製品形態による回収方法を整理して、構築していくことが必要です」と酒井氏は言う。また大手コンビニエンスストアが回収拠点を設けるなどの動きも出ているように、Recycleに至る消費者の行動も含めた社会システム整備が求められるだろう。
Recoveryの熱化学変換の一つに焼却処理がある。全てを循環できるのが理想ではあるが、最近注目されているように病原体に汚染されたマスクや防護服は、安全のためにも焼却する必要がある。またあまりに汚れたものは洗浄・分別するのに多くのエネルギー、ひいては資源が必要となるため、焼却して熱エネルギーを回収した方が環境に良い場合もある。いずれもプラスチックという材料の循環のみを考えるだけでは不足する事例であり、周辺も合わせ見て社会・環境にとって何が良いのかを判断していく必要がある。
Renewableの観点では、バイオプラスチックが素材として注目されている。酒井氏は、代表的なバイオプラスチックであるポリ乳酸とバイオマスポリエチレンについて生産から焼却までのライフサイクル全体で13.8%の温室効果ガス排出量削減が期待できることを明らかにした(図2)。一方で、コストや機能面では100年の歴史を持つ石油由来プラスチックに劣ることもあり、バイオプラスチックの利用を増やしていくためには今後も研究開発が必要だ。
世紀を越えた概念転換のチャレンジ
20世紀は、より良い物を大量に生産し、社会に普及させることが優先され、その結果として古く劣るものが不要になり大量に廃棄されるリニアな社会が形成されてしまった。物質、エネルギーが循環する持続可能な構造を実現するには、前述した通りどこか一箇所を大きく変えればいいわけではなく、社会システムのあらゆる場所で、それぞれの変化が他にどう影響するかを考えながら進めていく必要がある。酒井氏は「世紀を越えたチャレンジになる。そのために必要なのは、一つずつの成功事例を積み上げていくことです」と、変化には長い時間がかかると予見する。未来の子どもたちが過ごす社会や環境をより良いものとして維持していくためには、持続可能な循環型社会のあり方を考え、行動し続けることが重要となる。
※『教育応援 vol.47』から転載