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カブトムシの腸内細菌が「腸内に生息するメリット」を探る!【サイエンスキャッスル2023関東大会ダイジェスト】
2024.05.31次世代研究者達が躍動する中高生のための学会「サイエンスキャッスル」の様子や、現場の熱気をダイジェストでお届けします。今回は、サイエンスキャッスル2023関東大会の口頭発表演題にて神奈川工科大学賞を受賞した、藤森 湧さん(山梨県立韮崎高等学校2年)の発表の様子です!
※所属・学年は発表当時のもの
美しくかっこいい!ヤマトカブトムシの不思議
こんにちは。山梨県韮崎高校の藤森湧と申します。私は、日本でよく見られるこのヤマトカブトムシについて研究しています。ヤマトカブトムシの幼虫は、腐葉土など、主にセルロースを主成分とするものを食べて成長しています。カブトムシ、美しいですね。とてもかっこよくて、外見が大好きです。
「彼らについてもっと知りたい。人間はセルロースを食べられないのに、なぜ彼らは食べれるんだろう、どうしてそれを栄養にできるのだろう」という素朴な疑問から、私は研究に取り組みました。今までの研究から、幼虫の腸内は嫌気性かつ塩基性環境であること、また、腸内細菌とカブトムシの幼虫には共生関係があることが分かっています。共生関係の中での幼虫側の利点は、腸内細菌にセルロースなどを分解してもらうことで栄養を得られることです。幼虫にとって腸内細菌はとても重要な存在なのです。しかし、腸内細菌にも何らかの利点があるはずだと僕は考えました。そこで大きな仮説として、カブトムシの幼虫と腸内細菌との間には相利共生があると考えました。
腸内細菌がカブトムシと共存するメリットはあるのか
そこで、腸内細菌側の利点を3つ考えてみました。1つ目として、カブトムシの腸内細菌は土壌由来であることがわかっているのですが、その土壌にいる細菌の一部が腸内で活性化できること、2つ目として生育するのに腸内が最適環境であること、3つ目として外敵となる生物から保護してもらえることです。この考えをもとに、検証を行いました。
検証1つ目です。土壌とカブトムシの腸内の大きな違いの1つとしてpHがあります。カブトムシが腐葉土の餌をバクバクと食べることで、食べ物と一緒に土壌細菌が腸に侵入し、本来ならば塩基性環境の細菌が腸内では土壌とは異なる活性をみせるではないかと考えました。
そこで実験1を行いました。異なるそれぞれのpH条件に調整した寒天培地にカブトムシが食べる餌、中腸、そして糞から採取した細菌を培養し、寒天培地に発生したコロニーの個数を数えました。
結果として、色や形の特徴から細菌は12種類に分けられました。グラフの縦軸が細菌のコロニーの数、横軸が分けた細菌の種類を表しています。この中で私が注目したのは、pH10において多く培養できた中腸の細菌の一種です。本研究ではこの細菌株にゼータと名付けました。中腸pH10にてゼータが確認でき、エサやフンからは確認できませんでした。その理由の考察としては採取ポイントが表層、土壌の表層であり比較的好気性環境です。しかしカブトムシの中腸自体は嫌気性なので、その嫌気性条件と中腸の塩基性環境が、土壌から入ってきた細菌が腸内細菌として活性化する条件の一つなのではないかと考えました。
カブトムシの腸内は腸内細菌にとって最適環境?
検証二つ目です。カブトムシの腸内は嫌気性環境のためセルロースや硝酸イオン等の栄養分が揃っていると、腸内細菌は嫌気呼吸を行いセルロースや硝酸イオンを消費して増殖していきます。
そこで実験としてpHに加え、好気性と嫌気性の環境の違いを加えた条件で、先ほど検証1で名付けた菌株ゼータを2週間培養しました。そしてこの培地内の硝酸イオンの濃度を測定しました。
結果です。縦が硝酸イオン濃度、横がpHとなっており、青いブラックが嫌気性、オレンジが好気性となっています。白い丸で囲んだように、嫌気性かつ塩気性環境において硝酸イオンの消費量が多いことがわかりました。考察として、塩気性かつ嫌気性環境での硝酸イオンの消費量が多いことから、この環境が多い分、カブトムシにとって栄養を摂取するための結果的な利点になるといいます。
カブトムシの腸内にいると、外敵から身を守れる?
検証3として、まず腸内細菌の外敵となるゾウリムシについて。ゾウリムシ自体は食作用を持つ微生物で、湿った腐葉土などに生息しています。カブトムシの幼虫は腐葉土を食べることから生息域が重なり、外敵となるのではないかと考えました。仮説として、細菌が嫌いで、ゾウリムシにとって有利な環境であれば、硝酸イオンの消費量は少なくなり、逆に細菌が好み、ゾウリムシにとって不利な環境であれば、硝酸イオンの消費量は多くなると考えました。そこで実験3では、実験2の流れに加え、培養の途中にゾウリムシを滴下しました。結果です。このように形式は、先ほどの実験2と同じなんですが、やはり、塩基性かつ嫌気性環境においての硝酸イオンの消費量が多くなりました。
検証によって新たに発見された、カブトムシと腸内細菌の関係
考察として、嫌気性かつ嫌気性環境であることで、この表のゾウリムシのいる環境、ゾウリムシのいない環境においての嫌気性かつ塩基性環境での消費量があまり差がないことから、腸内環境がゾウリムシの活性を弱めていると言えます。つまり、腸内細菌を保護していると言えます。
まとめとして、まずカブトムシの利点は最初に述べたとおりセルロース分解による栄養の確保が挙げられますが、今回の検証によって新たに腸内細菌の利点として「最適環境で生育できること」「外敵からの保護につながること」という互いに利点のある共生関係となっており、結論として、カブトムシの幼虫と土壌細菌の間では相互に共生の関係があるといいます。ご清聴ありがとうございました。
質疑応答
花岡 健二郎(慶應義塾大学):
pHのところが面白いなと思いました。pH10とか8って結構アルカリで、通常の人の細胞とかも死んでしまうようなぐらいpHが高いと思うんです。今回pH10とかそれぐらいで良かったという。嫌気性というのもあると思うんですけど、その辺りは何と考察されますか。
藤森 湧:
先行研究において、カブトムシの腸内には中腸と後腸があって、中腸がpH10になっており、後腸がpH8になっています。これを踏まえ、カブトムシの腸内環境を再現する上でpH8と10、そして土壌にある、実際にカブトムシが食べている餌のpHを測定した際のpH5、あとは中性環境のpH7というものによって条件設定をしました。
花岡 健二郎(慶應義塾大学):
そうすると腸内のpHと合致するような形で、腸内細菌でそこのpH8でいるのが有利になるように生きているということですよね。非常に面白いなと。菌についても、どういう菌があるのかって調べると、面白いものがもっと分かるのかなと思いました。面白かったです。
藤森 湧:
今回採取した細菌ゼータについても、種を同定したいんですけど、実験段階で失敗することが多くて、チャレンジしているところです。
上原 与志一(三井化学株式会社):
非常に面白い発表ありがとうございます。一番最初の題名は、どうしてⅢなのでしょう。
藤森 湧:
実はこの研究、僕がもともとカブトムシが好きだったというのもあるんですけど、先輩たちが、共生関係以外についても検証していた研究があります。この学校の部活でカブトムシの研究をやっていたというわけです。その頃にⅠとⅡだったので、今回Ⅲになりました。
上原 与志一(三井化学株式会社):
ⅠとⅡから比べて飛躍しましたか。
藤森 湧:
そうですね。ⅠやⅡだと、細菌の特性についての研究や、共生関係が引き継がれるかどうかということについて研究していたんですが、今回は腸内細菌が活性化できるかどうかという、腸内細菌の利点を詳しく深めた研究になっています。
上原 与志一(三井化学株式会社):
もちろんⅠとⅡの基礎があって、Ⅲがあったと思うけれども、それを引き継いできたのですね。
飯田 泰広(神奈川工科大学):
消費量みたいなものを見ていたと思うんですけど、セルロースを分解できる能力とか、そういったものを調べたりされるのでしょうか。
藤森 湧:
細菌の活性を調べる上で、セルロースを多く消費していたら、それを栄養にしている細菌が多く増えているという風に考えたんですが、その中でセルロースがどれだけ消費されているか定量化するのがすごく難しいです。模索している中で、増えるんだったら腸内細菌が増える際に、結局は増えるとか分裂するわけだから栄養が必要になります。それをセルロースと共に消費すると考えてこのように硝酸イオンの栄養を消費して、それと共にセルロースも消費されたというふうに考えています。
飯田 泰広(神奈川工科大学):
この菌は一種類だと思うんですが、複数の菌が総合的な活動をしているのですか?
藤森 湧:
今回の研究で出てきているゼータという細菌もいるんですけど、腸内細菌なので人間と同様に様々な細菌がいると考えています。検証1の段階で寒天培地を使用しているんですね。寒天培地で培養できる細菌は一握りに限られているので、今後は様々な方法で細菌を管理し検証していきたいと考えています。
(※敬称略)