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目に見えない現象を見えるカタチに!心臓の同期を解明する【サイエンスキャッスル2023関東大会ダイジェスト】
2024.05.31次世代研究者達が躍動する中高生のための学会「サイエンスキャッスル」の様子や、現場の熱気をダイジェストでお届けします。今回は、サイエンスキャッスル2023関東大会の口頭発表演題にて三井化学賞を受賞した、斎藤 菜那さん(栃木県立矢板東高校2年)の発表の様子です!
※所属・学年は発表当時のもの
目に見えない現象を目で見えるカタチに表したい
皆さんこんにちは。栃木県から来ました、栃木県立矢板東高等学校の齋藤菜那です。私の研究テーマは「非線形現象の数物理的解析」です。私が好きなものは、世の中にある「なぜ」を追求することと、目に見えない現象を文字や数式で表せる科学です。以前、宇都宮大学のIPUの講座で複雑な現象を数式化している「同期現象」に出会いました。それから目に見えない現象を目で見えるカタチに表したい、そうしたらとても面白いのではないかと思うようになりました。
同期現象とは、「リズムを刻む個体同士が近づくことで、集団レベルの大きなリズムが発生すること」です。身の回りの同期現象では、ホタルの光、ろうそくの火、時計台、心臓の拍動、カエルの合唱などが挙げられます。その中でも私は特に、自分の体内の心臓で同期が起きていることに魅了され、心臓の同期について研究することを決めました。
心臓の拍動におけるメカニズムを解明する
心臓は、心筋細胞が同期することで迫動します。これには、細胞と細胞の間にある連結管が重要な役割を果たしていると考えられています。心筋細胞の連結管は、ショッピングモールの渡り廊下のようなイメージです。
この心筋細胞の連結間では、情報伝達物質であるカルシウムイオンの分布が観測されることで、心臓が迫動できていると考えられています。そこで私は、心筋細胞を2つの反応槽に置き換えることで、同期現象の可視化に挑みました。これまで数理物理学分野の研究では、同期現象についてのシンプルなアプローチが沢山ありましたが、ほとんどが細い連結管を用いて実験しているものでした。太い連結管を用いると、数字体が1つの反応要素となるため、振る舞いが独特になるからです。そこで、太い連結管を用いて、両端の反応の振動周期が一致する場合では、位相方程式が可視化できるのではないかと考え、連結管内のBZ反応の位相変化を調べることを目的として研究を行いました。また、仮説として、複雑な連結管内の構造では、連結管の位相差を通して他の振動子と結合しているのではないかと考えました。
実験方法を示します。反応にはBZ反応を5つの試薬で表し、画像のように解析を行いました。
実験の様子です。左右の反応層で、領域の色が濃くなったり薄くなったり変化しています。これをBZ反応といいます。
次に、結果及び考察です。約10秒間の輝度の時間変化を表しました。部分2のところでは、両端の速度は一定でしたが、部分2で位相送が調整していることがわかりました。部分0、1では1つ目のピークで揃っていますが、2つ目のピークでは、3、4、5と位相が揃っていることが分かります。
次に、位相の変化速度を比較しました。S字曲線の時間を固定してみると、部分2で位相が大きく、変化速度が速いことがわかります。位相の時間変化を抽出したところ、やはり部分2と3で移送変化速度が速いことがわかりました。
「斎藤モデル」で心筋細胞の可視化を目指す
研究の結果、この連結管内部で位相を調整していることが分かりました。私は、この位相差を利用して、蔵本モデルで反応式を表すことができるのではないかと考えました。蔵本モデルとは、「非線形同士の集団を記述する数学モデル」です。科学的に幅広い応用が期待されています。今回、蔵本モデルを用いて「連結管中間部分だけは同期せずに変化する」という状況を再現できないか、簡単なシミュレーションを行いました。私は、3つの部分が相互作用をすると考えました。赤い点が部分1、青い点が部分2、緑の点が部分3です。緑の点部分3と赤い点部分1が同期するとき、真ん中の部分2も同期していることが分かります。
次に、部分1と部分3の相互作用は無いと考えて計算をしました。こちらも、やはり青い点部分2が同期していることが分かります。両端は同期しているのに、真ん中だけは同期せずに変化するという状況を今のところ再現できていません。
原因として、「連結管内で物質の流れが無視できないくらいにあるため、蔵本モデルだけでは表せない」のではないかと考えました。今後は、蔵本モデルに対流方程式を加えてシミュレーションを行いたいと考えています。将来的には【斎藤モデル】として心筋細胞の構造の可視化につなげたいです。
同期現象の解明から、心筋梗塞の治療に貢献したい
今後の展望として、私は引き続き、2つの反応槽をつなぐ連結管内で、反応波がどのように進行しているかを解析したいです。この研究が「心筋梗塞の治療につながると素晴らしい」と考えているからです。心筋細胞同士をつなぐ連結管内で反応波がうまく進行しないと、心筋細胞の同期の条件が崩れ、心筋梗塞につながります。今後は、心筋細胞を2つの反応槽に置き換えて実験をしていき、心筋梗塞時の心筋細胞の連結管内を可視化し、治療に貢献したいと考えています。
質疑応答
上原 与志一(三井化学株式会社):
非常に面白い発表をありがとうございます。私も化学工学が専門で、基本的に反応式を全て数学で表していくという研究をしていたので、発表を聴いていて非常に楽しかったです。BZ反応、太い管で本当に可視化したというところにすごく感動したというか、とても面白いなと思いました。1つ質問です。この管を作るのは自分で作ったのですか?
斎藤 菜那:
今回の連結管は特注でつくりました。
上原 与志一(三井化学株式会社):
そうすると、難しいかもしれないですが、管の太さと長さを変えていくと、経験式から抜け出せると思います。そうしていくと、本当に斎藤モデルができるのじゃないかなと思ったので、とても期待しています。
斎藤 菜那:
ありがとうございます。
森下 直樹(日本ハム株式会社):
最終的には心筋細胞の同期現象を可視化したいということで、現在はそのために太い管を作っていると思うんですけれど、このモデルが本当に心筋細胞を再現できるのかという所は分からなかった。先ほど上原さんが仰られたように、管の太さを変えることで色々と見えてくるものがあるのではないかなと思いました。ぜひ検討してみてください。
斎藤 菜那:
ありがとうございます。
西山 哲史(株式会社リバネス):
素晴らしい発表をありがとうございました。僕がこの発表を見て気になったのは、部分2のところで同期の調整がされていたじゃないですか。部分2は少し左寄りで、どうして部分3じゃなくて部分2なんだろうと不思議に思ったんですけれど、そこに関しては何か仮説はありますか?
斎藤 菜那:
質問ありがとうございます。こちらは左反応層で攪拌させて、右反応層からスタートをしたので、少し早く位相が見られた部分2で調整をしているのではないかと予想しています。次に右反応層で攪拌を始めて左反応層でスタートをさせたときは、部分3寄りから位相を調整しているところが見られたので、攪拌をする反応槽が影響をしているのではないかと。
(※敬称略)