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冬になっても装飾花が残るのはなぜ?ガクアジサイの不思議に迫る【サイエンスキャッスル2023関東大会ダイジェスト】

2024.06.04
冬になっても装飾花が残るのはなぜ?ガクアジサイの不思議に迫る【サイエンスキャッスル2023関東大会ダイジェスト】

次世代研究者達が躍動する中高生のための学会「サイエンスキャッスル」の様子や、現場の熱気をダイジェストでお届けします。今回は、サイエンスキャッスル2023関東大会の口頭発表演題にて慶應義塾大学賞を受賞した、宮本 航聖さん(浦和実業学園中学校・高等学校2年)の発表の様子です!

※所属・学年は発表当時のもの

偉大な研究は情熱的な人々からしか生まれない

浦和実業高等学校の宮本航聖です。よろしくお願いします。私は、中学2年生の時に本の中でApple創業者スティーブ・ジョブズに出会いました。それ以来彼のことが研究と同じくらい大好きです。そんな彼は、「偉大な製品は、情熱的な人々からしか生まれない」という言葉を残しています。そこで、「製品」という言葉を、私の身近な言葉である「研究」に置き換えて、「偉大な研究は情熱的な人々からしか生まれない」という信念のもと、研究を進めています。今回の発表に対しても、スティーブ・ジョブズのプレゼンテーションを何度も見ながら準備に励みました。情熱的な感情があれば世界を変えられる。宇宙に衝撃を与えられる。自分の実験室の周りには高度な研究機材や、特殊な薬品を用いている研究をしている人が多くいます。そのような中で、私は小学6年生の時に祖母の家の庭先で抱いた小さいけれど素朴な疑問を大切にするべきだと考えました。高校生活をかけ、「ガクアジサイの装飾花が長期間にわたり、反り返って残る謎」というテーマで研究を進めています。

 

 

美しい装飾花にまつわる謎を解明したい

花は種子植物の重要な生殖器官で、一般的には中心からめしべ、おしべ、花弁、がくの順に配置されています。「がく」は目立たないことが多いのですが、ガクアジサイの場合は例外的に、「がく」を色鮮やかに大きく発達させ、美しい装飾花と呼ばれる器官となっています。装飾花は昆虫の流入に関与してきたとされているのですが、ガクアジサイの場合は、図2のように、反り返るという現象が報告されています。

 

これを時期を追って観察してみますと、図-3のように反り返った「がく」は、12月頃になってもその形状を維持する傾向があります。ここで私は、『普通の植物であれば繁殖期のみに「がく」を形成すればいいのに、なんでこんなことをするんだろう』と思いました。そこで、この反り返った「がく」は、すべり台のような役割を持っていて、両性花の蒴果からこぼれ出た種子の散布範囲を広げているのではないか、という仮説を立てました。

 

 

まずは、モデルを用いた実験

残念ながら、この実験を始めた当時は種子や反り返った状態の「がく」を採取できる時期ではありませんでしたので、まずはモデル実験から始めました。手順は次のようになります。動画を用いながら説明します。

 

 

まず、ドーム状のお皿と円盤、ガラス製ビーズ玉、切り拭き、そして雑巾を用意します。そして、設置面に切り拭きを吹きかけ、この後落下させるビーズが反発を受けるというのを防ぎます。ドーム状のお皿の上に先ほどの円盤を乗せます。まずは、装飾花なしの状態で、高さ2cmから直径約1mmのビーズ玉を約180個落下させてみました。すると図-4のように拡散していきました。次に、装飾花ありの状態でも実施しました。(動画を)よく見ていただくと、中心部に落下したビーズは、その後ドームのお皿いずれかに当たってはね返っているということが確認できます。結果を図4と図5にまとめると、どちらも放射状に落下している。ただし図5の装飾花ありのモデルの方が、より顕著に種子が散布していることが伺えます。

 

 

図6のようにデータを重ね合わせてみると、より視覚的にも効果が確認されます。

 

 

また、棒グラフで表すと、装飾花ありの青色の部分の方が全体的に移動距離が右にずれていることも分かります。赤の部分が装飾花なしですが、両方が重なり合う部分が紫色になっています。

 

 

ついに、実物での実験!そして・・・

ということで、やっと実物の装飾花を入手できる時期になったため、先ほどと同様の手法で高さが10センチ程度になるように設置して実験を行いました。
結果は、図-10がH1、装飾花がない状態、図-11が装飾花がある状態、H2となります。重ね合わせたものが図12なのですが、先ほどのモデル実験で掴めたようにどちらも放射状に分布している。ただし、装飾花が存在することによってビーズはより遠くまで飛ばされていることが分かります。データ化してみますと、やはりこちらも装飾花有りの方が右にずれていることが分かります。

 

 

ここからが驚いたポイントなのですが、中心からの移動距離にしてH2、装飾花ありの場合ですと、H1に比べてなんと2.7倍の大きさが出ました。

 

 

ここまでである程度の実験データがまとまったのですが、本日発表するプレゼンテーションの提出直前に、何とか少量の種子を入手することができましたので、最後に実験3を行いました。
手法は実験2に準ずる形で行いました。この時、初めて私は自分の手で種子をこの目で見て確かめて最高にエキサイティングでした。若い時代の種子は、顕微鏡で見てみると、このように中央部が丸みを帯びて、両端が突起を持つような直径1mmの構造となっています。

 

 

落下させてみますと、大半は接地面に落下しました。しかし、一定量は装飾花の上に残ってしまいました。これを見て、私はとても裏切られたような気分でした。

 

 

しかし、これもガクアジサイの一つの戦略だと考えました。最初に述べた仮説、装飾花に種子が跳ねかえるというのはそのまま。ただし、装飾花の上に残された種子は、その後風の影響でより遠くまで飛ばせるように踏ん張っていると仮説を立て直しました。この仮説を確かめるために、今後は野外で採集したものを観察可能なエリアに植え替え、3月頃に散布されたものがどのような場所に発芽していくかを調査し、データ化していきたいと思っています。この実験は、今後大学生活に入っても続けていくつもりです。自分の大学生活もガクアジサイに捧げるつもりで実験を進めていきますので、ぜひ皆さん応援よろしくお願いします。ご清聴ありがとうございました。

 

質疑応答

上原  与志一(三井化学株式会社):
非常に面白いプレゼンありがとうございます。一点質問があります。宮本さんは、なぜこのガクアジサイに注目したのでしょうか。どこか近くにある、親戚の家にあったとのことですが、なぜ「反っている」ところに興味を?

 

宮本 航聖:
小6のときのことになりますが、祖母の庭先では他に、例えばブルーベリーやヒマワリも祖母が一緒に栽培していました。その中でガクアジサイだけは秋冬になっても葉の部分を落とさないのです。それを見て、「これで本当にいいのか」と疑問に思いました。そして、今回生物部に入部したことがきっかけで、自分の疑問を解決するためにこの実験に取り組みました。

 

上原  与志一(三井化学株式会社):
最初は葉が残っているところに注目したのですか?いつまで葉を落とさないのだろう、と。

 

宮本 航聖:
おっしゃる通りです。

 

上原  与志一(三井化学株式会社):
実験を重ねていく過程が、非常に面白いなと思いました。

 

森下 直樹(日本ハム株式会社):
最後の種の形を見ると、多分風で飛んでいくような形じゃないかなと思うんですね。なので、今回の実験、仮説に加えて、やっぱり最後に風に乗って飛ばされやすいような形なんじゃないかと。恐らく、「がく」があることで風の抵抗を受けてよく揺れて飛んでいくとか、いろんな方向性があると思います。風に着目をして今後実験をやっていくと、とても面白いんじゃないかなと思います。

 

宮本 航聖:
ありがとうございます。

 

飯田 泰広(神奈川工科大学):
自然の中での写真もありましたが、実際にどのように撮っているのですか?

 

宮本 航聖:
実際に最初の方でお見せした画像の下にある日付を見ていただくと、12月22日という年末、画像にある両性花の部分を確認したところ、種子はありました。

 

飯田 泰広(神奈川工科大学):
種子の形から見て風っていうのもあるけど、動物にくっついたりするようなのもあるのかな、刺さりそうな形でもあるので、長く残しておくと、動物が通ったときにくっつくというような。

 

宮本 航聖:
装飾花は大きく発達しているという点で、風の影響を非常に受けやすくなっている。だから、最後に仮説を深めたときに話した、「装飾花の上で種子が踏ん張っている」という状態を最大化できるように、花もそういう戦略で進化してきたのかなと考えています。

 

花岡 健二郎(慶應義塾大学):
風や動物の情報が重要なのかなと思いましたが、もう一つ。実験して、仮説と実証で2.7倍増えたという。2.7倍が数値としては大きいように見えるけれども、そこだけ違うと、花を増やすという意味ではどれくらい影響があるのかと思いました。

 

宮本 航聖:
両性花の部分からは大量の種子が放出されるんですけれども、それらが全部元の植物体の近辺に落ちてしまうとそこの部分で仲間同士で土壌の栄養分だとか日照条件を奪い合ってしまう。ある意味、自滅行為になってしまうというので、どうしても種子を飛ばさないといけない。例えば、たんぽぽですと綿毛とかで遠くまで飛ばすんですけれども、それと同じように、これも近くに仲間が集まりすぎないようにしているというふうに考えています。

 

花岡 健二郎(慶應義塾大学):
なるほど、わかりました。ありがとうございます。

 

(※敬称略)