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生き物の最小単位である「細胞」に挑み、人類の課題解決へ!【サイエンスキャッスル2023関西大会ダイジェスト】

2024.07.22
生き物の最小単位である「細胞」に挑み、人類の課題解決へ!【サイエンスキャッスル2023関西大会ダイジェスト】

次世代研究者達が躍動する中高生のための学会「サイエンスキャッスル」の様子や、現場の熱気をダイジェストでお届けします。今回は、サイエンスキャッスル2023関西大会の口頭発表演題にてロート賞を受賞した、西 美生子さん(兵庫県立神戸高等学校2年生)の発表の様子です!

※所属・学年は発表当時のもの

 

小さな細胞が織りなすダイナミックな世界

私のビジョンは、「生き物の生態系を制御し、人と地球が共生する社会を実現すること」です。これが実現すれば、現在人類が抱えている課題の多くを解決することができます。その第一歩を踏み出すには、最も小さな単位を理解することが必要だと考えています。生き物における最も小さな単位は細胞です。実は、その細胞の中には、ダイナミックな世界が広がっているのです。今日はその一部をお見せします。

細胞の中にも古いものを分解して新しくするリサイクルの役割があることを、皆さんはご存知ですか?私はそんな役割を持つオートファジーについて研究しています。
オートファジーとは、細胞内の成分を大規模に分解する機構です。まず隔離膜と呼ばれる座布団のような形のものが形成され、それが伸びて細胞内成分を取り囲み、オートファゴソームという丸い二重膜のものになります。その後、オートファゴソームはリソソームという細胞内で胃のような役割を果たす細胞小器官と融合し、包まれた内容物を分解します。

 

 

 

悪いものを取り除く?「選択的オートファジー」

これまで、オートファジーは非選択的に物質を分解すると考えられてきました。しかし近年、特定の基質を選択的に分解する「選択的オートファジー」の存在が明らかとなりました。私はオートファジーの中でも、損傷を受けたリソソームを選択的に除去する「リソファジー」に着目しました。細胞の中で消化の役割を担う細胞小器官であるリソソームは様々な要因によって傷ついたり壊れたりします。リソソームの膜が破れると酸性の内容物が細胞質へ流れ出て炎症や酸化ストレスを起こして細胞死を引き起こし、疾患につながります。これを人間の体全体で例えると胃に穴が開いて中の胃液が流れ出るようなイメージです。そのためリソファジーによってリソソーム損傷に対処し、細胞内の向上性を維持することが重要です。

 

 

タンパク質の「パルミトイル化」に着目!

ここで、私のテーマを難しそうに見せている犯人、パルミトイル化について説明します。パルミトイル化とは「パルミチン酸などの脂肪酸を膜タンパク質のアミノ酸の一種であるシステイン残基に共有結合させる反応」です。簡単に例えると、人が用途に合わせて服を着るように、タンパク質も役割を変えるために修飾というものをします。このパルミトイル化というのは修飾の一種で、パルミトイル化されたタンパク質は、より水を嫌う性質になり、細胞内にタンパク質同士が集まりやすくなります。先行研究で、飢餓誘導性オートファジーにおいて、オートファジーが始まるときに重要なタンパク質のパルミトイル化を阻害すると、オートファジーが起こりにくくなることが示されています。しかし、リソファジーにおいて、細胞内全てのパルミトイル化を阻害したときに、オートファジー関連タンパク質の集積がどう変化するのかわかっていません。

 

そこで、本研究では、パルミトイル化阻害によるオートファジーへの影響を調べることを目的として実験を行いました。結果、オートファジー開始時、隔離膜伸長時、オートファゴソーム形成時、いずれのときに機能するタンパク質の集積もパルミトイル化阻害によって減弱しました。

 

パルミトイル化が細胞の生死に関わる!?

そこから、リソファジーも飢餓誘導性オートファジーと同様に、パルミトイル化を阻害するとオートファジーが抑制されると考えられます。また、飢餓状態の細胞にパルミトイル化阻害剤を加えると細胞が死滅しました。そこから、飢餓時にはパルミトイル化が細胞の生存に関わるほど重要だと推察されます。しかし、先ほどの実験からは、パルミトイル化とリソファジーの関係しか推察できず、最終的な損傷リソソームの修復・除去にどう影響するかは分かりません。そこで、リソソーム損傷を誘導し、パルミトイル化阻害剤を加えた場合、損傷リソソームがどれほど残っているか実験しました。今回は、損傷リソソームをマーカーによって光らせたため、通常細胞では左の写真のようにほとんど蛍光が見られません。リソソームを損傷させると、真ん中の写真のように明るく光ります。

 

 

そして、そこから6時間後の細胞内の損傷リソソームの残留量を測定します。通常細胞では、リソファジーによって損傷リソソームが除去されるため、損傷リソソームマーカーはほとんどなくなり、オートファジー不全細胞では損傷リソソームマーカーが残ると予想されます。結果は、予想と同じく、オートファジーを起こせなかった細胞では、通常細胞と比べて壊れたリソソームが細胞内に残り、このように蛍光が多くなっています。

 

 

それは、リソファジーによる損傷リソソームの除去が適切に行われなかったからと考えられます。右のグラフは、これらの蛍光の面積をグラフにしました。

次に、通常の細胞においては、パルミトイル化阻害剤を加えた場合に、蛍光の面積に差がありませんでした。これは予想と反しています。タンパク質を光らせて観察した段階では、パルミトイル化阻害剤によってタンパク質が集まりにくくなったため、リソファジーは働いていないと推察されます。

それならば、パルミトイル化阻害剤を加えるとリソファジーが働かないので、壊れたリソソームは多く残っているはずです。しかし、そうなっていないということは、リソファジー以外の壊れたリソソームを修理または除去する仕組みがあると推察されます。

 

 

さらに、オートファジーを起こさなくした細胞にパルミトイル化阻害剤を加えた場合にも、傾向の面積に差はありませんでした。

ここから、一つ前のスライドで存在が予測されたリソファジー以外の壊れたリソソームを直す仕組みには、パルミトイル化が関与していないと考えられます。これらのことから、リソファジー以外のパルミトイル化が関与しない損傷リソソーム除去経路が働いたと考えられます。

 

 

生き物の生態系を制御し、人と地球が共生する社会へ

最後に、今後の展望についてです。今回の研究並びに先行研究から、パルミトイル化を阻害するとリソファジーと飢餓誘導性オートファジーが減弱すると考えられます。そこで逆に、パルミトイル化を促進するとオートファジーがどうなるのか調べたいです。また、最後に存在が予想されたリソファジー以外のパルミトイル化が関与しない損傷リソソーム除去経路が、現在知られている別のもう2つの損傷リソソーム応答経路と、どう関係しているのか調べたいと考えています。そして、冒頭申し上げた私のビジョンである、「生き物の生態系を制御し、人と地球が共生する社会」を作ることを目指し、研究を進めていきたいです。
本研究を進めるにあたり、熱心なご指導をいただきました、大阪大学の佐伯さん、吉森教授、ほか研究室の皆さんに感謝の意を表します。以上で発表を終わります。ご静聴ありがとうございました。

 

質疑応答

フローレンス(ロート製薬株式会社):

大変興味深いです。私も勉強不足なところがありますが、オートファジーの世界はとても深いなということを改めて感じました。先ほど、「人」や「生き物」についてのお話もされていましたが、このパルミトイル化の増加や減少が起こった際、生き物自体はどのような状態なのでしょうか。例えば、どのような状態になると細胞の中にパルミトイル化が増加するのでしょうか。高齢の人ではオートファジーの機能がより低下していて、その一つの理由がパルミトイル化である、などの情報がもしあれば教えていただきたいです。

西 美生子:

パルミトイル化というのは基本細胞内で全体的に起こっているため、それが自然に疾患等で低下するということは、私の知識の中にはありません。パルミトイル化は生物の役に立ちますが、それだけではなく、オートファジーを抑制するっていう動きもあるため、パルミトイル化阻害をかけているという感じです。

フローレンス(ロート製薬株式会社):

細胞死なども誘導しているので、ガン細胞などをターゲットするという点が面白いところですよね。ありがとうございます。

安齋 太陽(大阪公立大学):

今後の展望について検討されているそうですが、除去機能が働かなかったことで、何が原因であるのか予想できることはありますか?

 

西 美生子:

予想できるところとしては、現在知られている2つがあります。その1つがエスコート機構という損傷リソソームを除去する機構です。これはリソファジーとは住み分けが違い、損傷リソソームも除去しますが、もう少し小さな損傷や、少し壊れた程度のものを損傷します。今後、エスコート機構ではないということを、研究を進めて明らかにしたいと考えています。
もう一つ考えられるのは、リソファジーなどを進めている転写因子のTFEB(ティーフェブ)というものです。TFEB関連でも損傷リソソームの除去が進んでいると最近分かってきたので、もしかしたらそれかもしれないですが、これいがいの新しい何かが原因である可能性のほうが高いなと考えています。

石澤 敏洋(株式会社リバネス):

質問ではないのですが、研究を進めたその先に、リソソームの除去などをうまくコントロールができるようになったときに、「こんなことに役立てたい」「こんなことを考えています」という、今回の発表の一歩か二歩先で考えていることを、ぜひ教えてください。

西 美生子:
はい、この研究は、人類の寿命を眺めたり、老化を抑えたり、そういうことが期待されます。個人的な話ではありますが、私は昆虫が好きです。その昆虫も、もちろんオートファジーをしてますので、昆虫の寿命を長くすることや、寄生虫との関連などを研究していきたいなと思っています。

(※敬称略)