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「友達」をキーワードに、「人助け」という行動を紐解く!【サイエンスキャッスル2023関西大会ダイジェスト】
2024.07.22次世代研究者達が躍動する中高生のための学会「サイエンスキャッスル」の様子や、現場の熱気をダイジェストでお届けします。今回は、サイエンスキャッスル2023関西大会の口頭発表演題にてダイセル賞を受賞した、上村美結さん(奈良県立青翔高等学校2年生)の発表の様子です!
※所属・学年は発表当時のもの
「見返りを求めない人助け」を研究する
私は、社会心理学の分野、向社会的行動について研究しています。向社会的行動とは「外的報酬を期待することなしに、他人を助けようとしたり、人のためになることをしようとする行動」と定義されています。端的に言うと、見返りを求めない人助けです。
続いて愛着。愛着は、家庭科の教科書に載っている「幼児期のアタッチメント」という意味もあるのですが、この研究においては、一体感や誇り、信頼感、所属意識、帰属意識を指します。
私は、「ワールドギビングインデックス(思いやり指数)」という面白い指数に惹かれて研究を始めました。この指数は、イギリスの慈善団体CAFが毎年発表している、思いやりのある国を決めるものです。3項目から世界ランキングを決めるのですが、その中の1項目に当てはまる「見知らぬ人を助ける」という順位において、日本は142カ国中142位。つまり最下位です。しかし、これは電話調査であることから、信憑性に欠けています。
中高生のコミュニティの特徴から、「友達」に着目
今回の研究では、私が通っている奈良県立青翔中学校・高等学校の中学1年生から高校2年生にアンケートを実施しました。アンケート項目は「向社会的行動」「所属意識」「学年と性別」「誰に対して向社会的行動をしたか」です。例えば、対象が家族の場合、家族が家事をしているときに自分も家事を手伝ったかを調べました。
この研究で明らかにしたいことは、友達に対してよく向社会的行動する人にはどのような特徴があるのかということです。敢えて友達に注目しています。中高生は、大人や大学生に比べて友達のコミュニティが狭く、親密でユニークです。そのため、これに注目することで新たな切り口が生まれてくるのではないかと考えています。
ここまで、向社会的行動について話をしてきましたが、タイトルにある愛着について触れてきませんでした。ここからは、愛着との関連性について話していきます。
自身が住んでいる地域に対して所属意識を持っているとき、向社会的行動である地域貢献をするという先行研究があります。それでは、「地域」を「友達」に変えて考えてみるとどうなるでしょう。友達に対して所属意識を持っているとき、友達へ向社会的行動するのではないか、と私は考えました。
それでは、友達へ向社会的行動する人にはどのような特徴があるのでしょうか。仮説を2つ立てました。1つ目は「友達に対してよく向社会的行動をとる人は、家族や見知らぬ人に対しても向社会的行動をとるのではないか」ということ。2つ目は「友達に対して向社会的行動をとる人は、友達に対して所属意識を持っているのではないか」ということです。
友達に向社会行動をとる人は、見知らぬ人にもとるのか
ここからは考察、結果、仮説の検証をしていきます。まず、1つ目の仮説についてお話します。これは相関分析の結果です。まず左の赤色を見てください。見知らぬ人への向社会的行動と、友達への向社会的行動0.461と正の相関です。右は、友達への向社会的行動と家族への向社会的行動0.585です。正の相関があるので、これだけ見ると友達に向社会的行動する人は、家族に対しても見知らぬ人に対してもするという結果になっています。
しかし、それで良いのでしょうか?分布図を書くと、違うことがわかります。まず左、友達への向社会的行動と家族への向社会的行動は近くに分布しているのですが、右を見てください。結構かたよってますよね。縦軸が友達への向社会的行動で横軸が見知らぬ人への向社会的行動。上の方がいわゆる友達によく向社会的行動をする人なんですが、結構横に散らばってますよね。つまり、友達に対して向社会的行動をよくする人でも、見知らぬ人に対してはする場合としない場合がある。でも左下を見てください。結構まとまってますよね。これはつまり、友達に対して向社会的行動をしない人は、見知らぬ人にもしないのです。これらの結果から、友達によく向社会的行動する人は家族に対しても行いますが、見知らぬ人に対してはする人としない人がいる、しない人は誰に対してもしないということが分かりました。
友達への所属意識と向社会的行動の関係
続いて、仮説二つ目を検証していきます。これは友達への向社会的行動と友達への所属意識についてまとめたものです。0.362と弱い相関が見られていて、マンホイットニーのu権定という仮説検定をしたのですが、有意差が確認できました。散布図を書くと、またばらけました。縦軸が友達に対する所属意識、横軸が友達への向社会的行動ですが、上の方が結構ばらけています。
これは仮説検定から算出しているので関係性はありますが、なぜうまくいかなかったのか?と考えたとき、アンケートを取る上で「友達」の定義をしていなかったことが原因ではないかと気づきました。グループをイメージするのか、個人をイメージするのか、これが大きく研究の結果を変える要素だったと考えます。しかし、友達に対する所属意識を持っている場合は友達に対して向社会的行動をよくするということが多かったです。
まとめると、友達によく向社会的行動をする人は家族に対してもよくしますが、見知らぬ人に対しては人によります。しかし、しない人は誰に対してもしない。友達によく向社会的行動をする人は、友達に対して所属意識を持っている可能性があります。なぜ可能性があるかで止めるかというと、友達や家族の定義を行わなかったからです。これを定義したらもっと革新的なものになったかもしれないですし、はたまた真逆の結果が生まれたかもしれません。参考文献は以下のとおりです。ご静聴ありがとうございました。
質疑応答
松本 健一(奈良先端科学技術大学院大学):
人間やその構造を対象として研究することの面白さと、逆にちょっと難しかった、ということがあれば教えてください。
上村 美結:
難しかったところは、外的要因がたくさんあることです。生物と比べて限定することがなかなかできない。そこがちょっと難しくて。例えば、家族の帰属意識が0.278と友達への向社会的行動より弱い相関が出ているんですが、なぜこのような結果が出たのかと考えた結果、中高生のコミュニティの狭さにあると私は思いました。しかし、それはアンケートを取っていないから分からないんです。想像上でしかない。だから、やはりこういう「人」を扱う研究というのは、外的要因がたくさんあるというのがなかなか難しいポイントだなと思っています。
面白かったところは、当たり前のことだと思って研究してみたら、実際は結構違うということもありました。逆に「これはやっぱりそうなんだ」ということも結構多かったです。例えば、友達に対して所属意識を持っているとき、友達によく向社会的行動しますよという結果が出たら、やっぱりそうなんだ。でも散布図を書いたらまた違う、というのが結構面白かったところです。
安齋 太陽(大阪公立大学):
友達や所属に興味を持っているんですね。視点を変えてみて、見知らぬ人が男性なのか女性なのか、子供なのかで助ける意識って変わってくると思うんですよ。小さい子供だったら、見知らぬ人でも助けるという意識がある。「どんな人でも助ける」という視点で、性別、年代とかで組み合わせると、もっともっと深く考察できるんじゃないかなと思いました。
上村 美結:
やはり、研究していく中で定義をしていなかったことによる影響が大きかったです。例えば、調査するときに、向社会的行動をどんなときにしたかということを自由記述で聞いていれば、もっと違う結果が得られたのではないかと思っています。
石澤 敏洋(株式会社リバネス):
よく日本人ってシャイだといわれますよね。それだけすごくランクが低くなってしまうのかなと、想像しながら聞いていていました。クラスの中でとても賑やかなクラスと、質問が上がってこないクラスがあるように、クラスごとの違いをもとに分析をすると、知らない人に話しかけやすいか、話しかけにくいかというところと、帰属意識に相関点が出て面白いと思うのですが、そういった研究はできないのでしょうか?
上村 美結:
似たものに傍観者効果という、いわゆる「周りの人が何もしなかったら自分も何もしない」というものがあります。これを取り入れれば面白いのですが、なかなか傍観者効果をアンケートで行うこと自体がなかなか難しいです。これからは、動機やモチベ―ションのようなところも視野に入れて研究をしたいと考えています。
(※敬称略)