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海は世界へと繋がる扉

2020.10.08
海は世界へと繋がる扉

北海道大学北方生物圏フィールド科学センター

「海」という言葉から、どんな場所を思い浮かべるだろう。青い空に白い雲、その下に広がるキラキラと太陽の光を返す南国の海を想像するだろうか。あるいは日本海のような、荒波が打ち寄せる海岸だろうか。全く様子の異なるこれらのフィールドだが、間違いなくいずれも海であり、互いに繋がっている。今回は、地域の海を見ながら国際色豊かな研究を進められるのが海洋研究の魅力だと話す、北海道大学北方生物圏フィールド科学センター厚岸臨海実験所の仲岡雅裕教授にお話を伺った。

写真提供:鈴木一平、仲岡雅裕、 伊藤美菜子
写真提供:鈴木一平、仲岡雅裕、 伊藤美菜子

北海道大学北方生物圏フィールド科学センター厚岸臨海実験所
仲岡 雅裕教授

 

海の森を知り、生態系を知る

北海道の東側、釧路から40kmほど東に位置する厚岸。付近の海は、寒流である千島海流(親潮)の影響が強く、アザラシなど寒流域特有の生物相がみられる。臨海実験所の近くには広大な藻場があることもその特徴のひとつで、深い緑が混じる紺色のような海だ。

ここで仲岡氏が行う研究のひとつが、アマモ場の生態学である。アマモとは、幅広い海域の沿岸に分布する種子植物の一種で、それが草原のようにたくさん生えている場所をアマモ場という。アマモ場は「海のゆりかご」とも称されるように、世界中の海で多くの生き物たちの生活の場や繁殖場所となっており、海の生物多様性を支えている重要な場所だ。一方で長期的に見ると、世界的に減少の一途をたどっており、その原因は埋め立てや流入河川の水質悪化といった地域性の強いものから、水温上昇や気候、海流等の変化といった世界規模で起きている問題まで様々だ。そこで仲岡氏のチームは、海外チームと協力もしながら厚岸だけでなく、東南アジアやアメリカ、ヨーロッパの各所のアマモ場を対象に、生物相の変化を調査している。

厚岸から、世界へつながる

また厚岸臨海研究所では、長期を見据えた研究として海洋酸性化に着目している。海水のpHが低下し、サンゴ等の生物に影響しているという話はよく聞くだろう。ただそう単純な話でもなく、例えば海中での光合成量がCO2濃度に影響するため、日中や夏にpHが上がり、夜や冬に下がるという変動がある。さらに、流入河川が影響する沿岸と沖合でも異なるし、海水温によっても変わる。世界の海が一様に酸性化していっているわけではなく、その状況は地域や生物相によって異なるのだ。大気中のCO2濃度が最も増えるシナリオだと、現在約pH8.1の海で、2100年までにpH7.8程度まで下がると考えられているという。この変化が生物たちにどう影響するのか。「牡蠣などの生育に与える影響を実験で調べていく予定です」と仲岡氏は話す。

さらに近年ではマイクロプラスチックの研究にも取り組んでいる。世界的に問題となっている微小なプラスチックの影響は、各国の研究機関で積極的に共同調査が進んでいる。その中で、貝類の摂食行動が阻害される効果が厚岸とインドネシアの間で異なることがわかり、水温が関係しているのではないかと仮説をたて、世界各地で温度を変えた実験を行うこととなったという。海における研究は、気候と生態系の関係や、マイクロプラスチックの生物への影響を理解したいという共通の目的がありつつ、海域による違いもある。それぞれの立地を活かして野外調査を行い、国際的に協力することで地球全体の海のことが少しずつわかってくるのだ。

さぁ、海へ行ってみよう

「海」と一口に言っても、磯、藻場、浅海、深海など様々な海洋環境が存在する。それに加え海流の影響や気候の違いも考えると、本当に多様だ。世界中全ての海がつながっているのに、地元のその海と同じ環境はきっと世界にふたつとない。当たり前のこと、と思う人も多いかもしれないがそれを実感している人は、実は少ないのではないだろうか。

厚岸臨海実験所では、年に数回小学生や中学生を海に連れ出し、沿岸の生物観察をするイベントや授業がある。土地柄、参加者には漁師の子どももいるが、実体験を通じて山や川を含めた周囲の環境に支えられて海の生態系ができていることを学び、環境意識の高い漁業者になっていってくれると嬉しいと仲岡氏は言う。

美しい写真や映像で映される海。それは美しい自然を多くの人に伝える方法である反面、身近になったつもり、体験したつもりにさせてしまうツールでもある。まずは海へ足を運んでみよう。海岸の潮溜りをじっと覗いてみる。石をひとつひっくり返してみる。それだけでも、小さな生物多様性を感じることができるはずだ。そしてそれは文字通り世界へと繋がっているのだ。

(文・秋山佳央)

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※『教育応援 vol.46』から転載