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うちの子紹介します(56):大家族生活での感染対策シダクロスズメバチ
2021.07.18研究者が,研究対象として扱っている生きものを紹介します。毎日向き合っているからこそ知っている,その生きもののおもしろさや魅力をつづっていきます。
黒と白のしま模様を持つシダクロスズメバチは,本州では低山地から山地に分布し,主に土の中に巣を作り集団で生活し,花粉より小型の昆虫や死んだ直後のカエルや魚など動物の肉を好んで食べます。東海地方では食用昆虫として地元の人々が飼育,採集し「ヘボ」「ジバチ」「タカブ」「スガレ」の愛称で親しまれてきました。
血のつながった家族で集団生活するシダクロスズメバチは,子の世話や,巣の管理などを家族で分業して行います。子を産む役目は1匹の女王バチが担い,複数のオスと交尾します。そうしてそれぞれ異なる父親を持つ子どもたちが生まれることで,遺伝的多様性が高まり,密集した環境で暮らす家族に病気が広がっても全滅しないと考えられてきました。しかし,シダクロスズメバチだけでなくスズメバチ科のいずれの種でも,今までその真相を確かめることができていませんでした。
岐阜大学特別協力研究員の佐賀達矢さんは,仮説の検証をするために,病原菌が多く生息する土中で生活していて,東海地方では飼育対象になっていたシダクロスズメバチに白羽の矢を立てました。調査の結果,崩壊した巣からカビが生えた女王バチを見つけ,カビの感染が死因になると考えたのです。そこで,地元の蜂愛好家の協力を得て,幼虫の死体から糸状菌というカビを採取し,それを複数の働きバチに感染させ,生存日数の差を調べました。すると,父親が違う個体間ではカビの感染後の生存日数に差があり,病原菌への抵抗性が異なることが明らかになりました。この結果から,遺伝的に多様な家族をつくることで,感染対策を行っている可能性があることが,スズメバチ科で初めてわかったのです。
その凶暴性で有名なオオスズメバチと比べると,知名度は決して高くないシダクロスズメバチ。地域でひっそりと人の生活にかかわっていた裏方が,スズメバチ科の種が「3密」状態でも大家族を維持できる秘密を解き明かす立役者になりつつあります。
(文・尹 晃哲)