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うちの子紹介します(54):雪のように空を舞うトドノネオオワタムシ

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研究者が,研究対象として扱っている生きものを紹介します。毎日向き合っているからこそ知っている,その生きもののおもしろさや魅力をつづっていきます。

いざ飛びだたんとす,トドノネオオワタムシ
いざ飛びだたんとす,トドノネオオワタムシ
秋元さんのハートを射止めた,幹母とその子どもたち
秋元さんのハートを射止めた,幹母とその子どもたち

晩秋のよく晴れた,風のないおだやかな日。彼らはいっせいに,空に向かってふわっと飛び立ちます。その正体はトトドノネオオワタムシ。体に白い綿毛を持ち,大勢が空に飛び立った様子はまるで雪が舞っているようです。その様子から,通称「雪虫」と呼ばれています。白い綿毛のように見える繊維は,じつは体に多数ある腺から分泌する「ロウ」でできています。その綿毛は,彼らが長く生活する根っこの中で,外敵や水分から体を守る役割や,空を漂うときのパラシュートのような役割を担ってくれています。

雪虫を研究する北海道大学の秋元信一さんは,「彼らは単為生殖で増え,自分と同じクローンを生むため,どの世代でも同じDNAをもっています。それなのに様々な姿に形を変えて,世代のサイクルを回していく。それが雪虫のおもしろいところです」と語ります。第1世代は,まるっと大きく羽を持たない姿の幹母。この世代はヤチダモという木の中で過ごします。その幹母から単為生殖で増えるのが第2世代。生き延びた少数のみが6月頃に,ヤチダモからトドマツの根元へ引越します。そしてその根元で新たな生活をスタートさせ,単為生殖をくり返すのが「根っこ世代」。「根っこ世代」は根から栄養を吸ってどんどんとその数を増やし,6~7回ほど世代を交代しながら長い期間を地中で過ごします。彼らは羽を持たないまま増殖を続けますが,冬が近づくと地面が冷えはじめ,それがスイッチとなって羽を生やすのです。そして,風のない穏やかな日に,ヤチダモを探していっせいに地面から飛び立ちます。

知れば知るほど,深まっていく不思議な形態の移り変わりと生態。市街にいっせいに出現すると,服や体にはりつくことから害虫扱いされることもありますが,こんなに愛らしく,不思議に満ちあふれています。

(文・秋山 佳央)

取材協力:北海道大学農学研究院 秋元 信一さん  写真提供:石黒 誠さん

someone vol.53』より

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