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ディープラーニングで描く、地球の姿

2020.10.05
ディープラーニングで描く、地球の姿
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海洋研究開発機構
付加価値情報創生部門 情報エンジニアリングプログラム

准研究副主任 杉山 大祐 さん

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▲ 熱帯低気圧のタマゴ検出の研究について取材を受ける杉山大祐さん(左)と同じチームの松岡大祐さん(右)。

みなさんは機械学習やディープラーニングという言葉を聞いたことがあるでしょうか。人工知能(AI)に関係する技術として多様な分野で活躍するこれらを使って,地球のさまざまな現象について研究が行われています。

画像から気象災害のタマゴを探せ

JAMSTECの杉山大祐さんが得意としている ディープラーニングは,大量の画像などのデータ からその特徴を自動的に読み解いて,判断や予測 を行います。この方法を用いて杉山さんを含む JAMSTECのメンバーはこれまでに,さまざまな 自然現象に向き合ってきました。たとえば,熱帯 低気圧発生を早い段階で検出するシステムです。 JAMSTECでは気象のシミュレーションの研究も 行っており,熱帯低気圧に関する大量のデータが あります。これを使い,熱帯低気圧が発達する前 のタマゴの段階で雲のパターンを特定します。「熱 帯低気圧とそのタマゴの雲画像を5万枚,熱帯低 気圧に発達しなかった雲画像を100万枚切り出 して,学習させました」。今後,実際の衛星画像を用いて,人間の主観によらずに熱帯低気圧を検出できる方法の確立を目指しています。

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▲︎ ディープラーニングで学習させた熱帯低気圧発生時の雲画像。多数の画像を学習させることで精度の高い判定が可能になる。

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▲︎ 関東で発生した地震波が日本列島を伝搬する様子の3次元構造。時間経過はT軸の下から上に積まれるように表現される。

大量のデータが、世の中の仕組みを紐解くカギ

また,杉山さんはディープラーニングを地震にも応用しています。規模や震源の位置をさまざまに変えてシミュレーションした地震波を3次元構造の学習データとして扱うことができます。ゆくゆくは,このデータから地震の規模や震源の位置などを高速に自動推定するシステムが開発できると期待されています。
このようにディープラーニングは,雲画像や3次元構造にした地震波などの複雑なデータを複雑なまま大量に学習し,精度の高い答えを出すことが得意です。一方,得られる判定式も複雑で,理解が難しいという苦手な部分もあります。これまでの科学は世の中の仕組みを捉えるシンプルで本質的な式を探すことで発展してきましたが,ディープラーニングはそれとは真逆のアプローチで答えを出すのです。「本質的な式を探すためには,他の機械学習も活用する必要があります。いろいろな機械学習を自在に使いこなせば,今まではひとりの天才にしか見つけられなかったような世の中の仕組みを,誰もが解き明かすことができるようになるかもしれません」と杉山さんは語ります。

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▲︎ 海底地形図の超解像のイメージ図。粗い地形図(左)から,高解像度の地形図(右)を描けるようになることが期待される。

精密な地形図で地球の姿にせまる

また,このディープラーニングを利用した技術のひとつに,超解像があります。同じ画像について高解像の画像と粗い低解像の画像のセットを用意し,異なる解像度間の変換式を学習することで,「このようなパターンが写っているときには,詳細な画像はこうなっているはずだ」というように,低解像の粗い画像だけから高解像の画像を計算する技術です。この超解像を使い,今新たに詳細な海底の地形図を明らかにしようという取り組みがはじまっています。
じつは海底の地形図はまだ世界中のほんの19%程度しかわかっておらず,加えて,高解像な地形図がある領域はもっと限定されています。より広い領域で高解像な地形図を得るため,超解像を応用しようとしているのが,JAMSTECの「数理海底地形科学」という研究プロジェクトです
このプロジェクトでは,マルチビームソナーや探査機などで取得した低解像と,高解像の地形図の2つの間のパターンを学習させ,低解像しかない領域で,その領域の高解像版の地形図を推定する技術をつくろうとしています。
精密な海底地形図をより広範囲に描くことができれば,その中で潮がどう流れ,魚などがどう移動するかをよりくわしく予測できるかもしれません。また,海底に眠る資源がどこにどれだけあるかを調べるのにも役立つはずです。地球上のすべての海底地形図が完成したとき,私たちはまた少し,地球の真の姿にせまることができるでしょう。

(文・木村 正樹)