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卒業生たちが教えてくれた 「未来を歩む」のに必要な力

2019.12.08
卒業生たちが教えてくれた 「未来を歩む」のに必要な力

鹿児島県立錦江湾高等学校
北迫 拓史 先生(左)・山﨑 巧 校長(中)・河野 裕一郎 先生(右)

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「10 年後の世界がどうなるか、誰も想像できない。だからこそ生徒には、どんな世界でも役立つ、大切な要素を学ばせたい」と山﨑 巧校長は語る。科学技術の発展と共に急速に変化する世界で、生徒たちがキャリア形成する上で重要な要素とは何か。
そして、そんな環境に送り出す学校が生徒に体験させるべき要素とは何か、取材した。

15年の歴史が積み上げた確かな実績

 理数科のみならず、普通科も課題研究に取り組む鹿児島県立錦江湾高等学校。2005年度にスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定されて15年の歴史をもつ同校は、ダイコンコンソーシアム(桜島大根のタネを使い、全国23の高校と行う課題研究)、県課題研究交流フェスタ(県内公私SSH4校による課題研究成果発表会)など、多くの活動を日本中に打ち込んできた。また日々の活動からは生徒達自身の発案による課題研究が生まれ、その数は年間で50にも及び、国内外で多くの賞を受賞している。
なぜこの高校では、これほど多くの研究課題が生徒達から生まれるのか。そこには、生徒の10年後のキャリア形成を見据え、北迫先生をはじめとした教員らがアイデアを出し合い設計したカリキュラムがあった。

教員の「熱」が熱いカリキュラムを生む

 「自ら課題を発見し、探求する活動は、入試や就職など、自ら人生を切り開く上で必要な『表現・思考・判断』の力を大きく養うことができます」と河野先生は語る。しかし高校生が課題を発見し、研究を始めることは容易なことではない。そこで1年時には、課題研究に必要な基礎的な力を養う場面を数多く設けてある。例えば、インターネットや専門書から正しい情報の引き出し方を学ぶ「情報探査」や「書誌学」の授業。地元の新聞記者からライティング方法を学ぶ「探求ガイダンスセミナー」。学んだことを地元の小・中学生に対し分かりやすく伝える力を養う「実験教室」や「小中学校への出前授業」など、その内容は多岐に渡る。
これらの授業は、全て「SSH部会」から生まれたものだ。毎週のように行われるこの部会には、体育から地歴まで、在籍教員の3分の1もが参加する。どんな教員でも気軽にアイデアを投げられ、おもしろければすぐに具体化し授業へ取り込む。教員の熱い議論が形となったカリキュラムを受けている生徒だからこそ、身近な環境から多種多様な課題の発見を可能とし、研究へと落とし込むことができるのだ。

大切なことは生徒達が教えてくれた

 素晴らしい実績が目立つ同校だが、一時はSSHの採択から漏れ経過措置となり、国からの支援も大幅に減少した。そんな時に先生達が行ったのが、卒業生へのヒアリングだ。高校時代の経験で現在に活かされていることは何かという問いに、多くの卒業生が課題研究への取り組みの中で培った、自分の考えていることを噛み砕き、相手へと伝える力だと回答した。この声があったからこそ、課題研究を経験する意義を確信し、普通科も含めた全校に課題研究のカリキュラムを広げることを決めた。
「SSHの成果は、生徒が5年後、10年後にキャリアを作ろうとした時に初めて見えてきます」。巣立っていった生徒達の姿は、今も教員達の胸に熱を生み出し続けている。今年も多くのOB・OGが母校に里帰りし、「先輩達のアドバイス講座」を実施する。課題研究から得られる学びを後輩に伝えるために。