サイエンスキャッスル

口頭発表 要旨 関東大会

大会名 口頭発表 要旨 関東大会

<O-01>
聖光学院をZES(ゼロエネルギースクール)にする

代表研究者:滝澤 朝茂
共同研究者:髙浦 惇、新地 涼介
所属:聖光学院高等学校

研究分野:01.環境

<要旨>
昨今の環境問題に対応するような建物づくりに興味を持ち、膨大な電力を消費している聖光学院の校舎をエコな建物にするため、断熱性能の高い窓や部屋の容積に適合したエアコンなどで電力消費量を削減した。そのためにかかる費用と削減できる電気代を比較し、利益が出る範囲で校舎がZEB(Zero Energy Building)として認められるプランを作成し、そのデータをwebproを使いZEBの基準にあてはまるか検証した。

研究概要
別企画でお世話になった戸田建設株式会社様が現在力を注いでいるZEB事業についてお話を聞く機会があった。 ZEB(Zero Energy Building)の普及により世界のエネルギー問題、環境問題に大きな影響を及ぼせると考えた私達は、身の回りにある建物で多くのエネルギーを消費している聖光学院がZEBになれば、削減できる電力量も多くなると考えた。そのため研究の第一段階として、聖光学院がZEBになるようなプランを作成する。そのプランの設備導入費用や電気代を比較し、利益を出しつつ、webproでZEBと認められるようなプランを作成することが1つ目の目的である。最終目的は学校でこのプランを実現することであり、そのためにも現在お世話になっている先生方やこのような発表の場で得られたフィードバックを活用し、戸田建設株式会社様にもご協力していただき最高のプランを作るのが目的である。

<イチ推しポイント>
設計図から調べて入力するだけでどれだけの電力消費量の削減が期待できるか、どれだけのコストカットにつながるか、ZEBとして認められるのかがわかるツールを作ることができれば、ZEBの認知度も上がり、学校での施行例の増加も期待できる。学校での電力消費を全国で抑えることによってエネルギー問題に貢献できるのではないだろうか。またこの研究の特徴は、電気代や設備の導入費用に着目し、利益が出るかどうかも重視している点だ。利益も出しつつエネルギー問題に貢献できることを売り出していけば多くの人が協力するきっかけになるだろう。

<O-02>
ユーグレナとアサリを用いた廃醤油の新たな処理法

代表研究者:脇 賢翔
共同研究者:竹本 怜将
所属:福岡工業大学附属城東高等学校

研究分野:05.化学

<要旨>
本研究は、豊富な栄養素を含むユーグレナに希釈した廃しょうゆを用いることで効率よく培養し培養したユーグレナをアサリ等の二枚貝の餌として利用し、廃しょうゆの処理を行う研究である。さらにアサリがユーグレナを餌として食べたときのアミノ酸の比較を行い、ユーグレナを餌とすることで、アサリは天然のものより美味しくなることが分かった。しかしこの研究は本来行われている活性汚泥法と同等の希釈倍率で研究しているため、より効率化を図り、希釈時の水の使用量の削減を目指して研究をさらに行ったものである。

研究概要
私たちは約8年前にユーグレナは光の波長でどのように増殖するかなど、ユーグレナ自体の基礎的な実験を行っていた。そして約4年前からユーグレナを実社会で活用できないかと考え、廃醤油(本研究では消費期限切れの醤油をさす)に着目した。醤油製造業は各地にあり、地域の食文化を担ってきていたが、消費性向の変化等による需要の減少など事業環境は厳しくなってきている。 なかでも、廃醤油は、色が濃く有機物が豊富なため好気性生物での活性汚泥法で処理されているが、電力や用水などの経費が負担となっている。しょうゆは、塩濃度が16~18%程度と高いが、良質なたんぱく質に富む優れた食品である。一方、ユーグレナは、アミノ酸やビタミン類など人の生活に必須な栄養素を高濃度で蓄積できる光合成能を有する藻類である。このユーグレナを廃しょうゆで培養し、それをアサリなどの餌として活用することで、より安価に廃しょうゆを処理することで、食文化の保持と地域の活性化に貢献することを目指すことにした。

<イチ推しポイント>
この研究の面白いポイントは、当初はユーグレナに関する研究のみであったが、実社会での活用ということを考え、あまり関係性を持たないユーグレナとアサリとで醤油を処理するということである。そして、この研究を成功させることができたならば、醤油の処理における経費の削減に加えてアサリの育種も行うことができ、地域活性化に大きく貢献できるという画期的な研究であると考えている。

<O-03>
ゴキブリは右利きか?

代表研究者:小田絢之
所属:東京大学教育学部附属中等教育学校

研究分野:04.生物

<要旨>
ゴキブリには右利き左利きがあるのではないかと考え、それを確認することを目的とし、ゴキブリの触角を切って餌を探させる実験を行った。左側の触角のみを切ったゴキブリはオス60%、メス80%が餌にたどり着いたのに対し、右側の触角のみを切ったゴキブリはオス・メスともに20%しか餌にたどり着かなかった。このことから、ゴキブリは餌を探すのに左より右の触角を頼っている、つまり右利きである可能性が示唆された。

研究概要
動物にも、右利き左利きがある事が知られている。例として、魚の捕食行動の左右差などが挙げられるが、 行動の左右差が確認された例は少ない。私は元々飼育していたゴキブリの、特徴的な活発に動く長い触角を観察していると、触角が左右独立して動くことに気がついた。そしてゴキブリにも右利き左利きがあるかもしれないと考えた。そこで、ゴキブリにも右利き左利きがあるのか確認することを目的とし、研究を始めた。触角はにおいなどを感じ取れる器官であるため、両方の触角がある個体は最も早く餌にたどり着き、全ての個体が餌にたどり着く、両方の触角を切った個体は餌にたどり着くことができない、また、右の触角のみを切った個体と左の触角のみを切った個体とで餌にたどり着くまでにかかる時間、餌にたどり着く割合に有意な差が見られればゴキブリの触角には右利き左利きが存在するという仮説を立てた。

<イチ推しポイント>
私は元々アルゼンチンモリゴキブリをかわいいと感じ、飼育していた。そのため一般的に嫌われているゴキブリの扱いにも慣れており、この研究を行うことが出来た。実験中ゴキブリを絶食させる際、たくさんのゴキブリが死んでしまうなど、絶食期間中に苦労したことが多々あったが、試行錯誤し乗り越えることが出来た。また、Free行動解析ソフトUMA Tracker を用いて餌にたどり着くまでの軌跡を描くという作業も自分で行っている。

<O-04>
魚類の性転換が引き起こす生体内外の変化と性識別への応用

代表研究者:皆川 優生
共同研究者:宋嘉楽、亀井亮衛
所属:浅野中学・高等学校

研究分野:04.生物

<要旨>
本研究では成長途中に性が変わるキュウセンを用いて、①性転換に影響を与える要因、②性転換にかかる時間、③採血による性識別への応用の3つの観点から研究を行う。キュウセンは個体の成熟度によって性転換することから、個体数などを変えた長期的飼育を行うことで成熟度の違いから①、②を明らかにし、定期的な採血もを行うことで③の応用化につなげる。また、個体による誤差をなくすため野外(釣り)で様々な個体の体長、体色、血球数等の測定を行う。

研究概要
近年、地球温暖化や水質汚染などの影響によって海に生息している魚類の数は減少傾向にあるため、魚類を人工的に繁殖させることは必要であると考えられる。しかし、魚類の中には雌雄が途中で変化するものも多く、見た目では雌雄を判別できないものも多く存在する。そこで私たちは海の生物の効率的な繁殖、さらに生物を殺すことなく性別を判断する指標をつくれないかと雌雄による違いについて考えた。そのとき、血液に関する授業で性別の違いで血球数などが異なることを知り、魚類にも応用できないかと考えた。哺乳類でも雌雄で血球数に違いがあることから魚類でも差があると考える(先行研究ではメダカの雌雄の血球数に差が見られた)。本研究を行うことで、採血によって血球数が分かれば体色よって見分けがつかない魚類も傷つけずに判別することができ、繁殖が難しかった種も増やすことができ、海洋の多様性を保全することができると考えられる。

<イチ推しポイント>
もともと幼いころから海洋系の動物に興味があり、現在でも釣りに行く趣味があります。好きなクマノミについて調べている中で、性転換をする生物であることが分かり、釣りの時によく見るキュウセンも同じように性転換をする魚類であることが分かった。生物の授業で雌雄の違いによって血球の数や生体応答が異なると知り、魚類でどのような違いがあるか調べたいと思いました。本研究の面白さは対象魚のキュウセンで、砂に潜って横向きで寝ること、体色を擬態して仲間をだまして繁殖行動を行うなどという報告もあり、謎も多い魚です。

<O-05>
新規抗生物質を生産する微生物の探索

代表研究者:津田 賢太郎
共同研究者:細屋 有美香
所属:三田国際学園高等学校

研究分野:04.生物、05.化学

<要旨>
本研究では新しい微生物由来の抗生物質を発見することを目的とし、土壌より放線菌の単離、抗菌活性測定を行なった。また、これらの工程において単離株全ての形態を画像として収集した。 結果、抗菌活性を有する株を獲得した。今後、収集した画像データ、抗菌活性測定、16S rRNA解析の結果をライブラリとしてまとめることで、単離する段階での微生物の画像解析による判断を可能にしていく。

研究概要
現在までに微生物から見出された抗生物質は20,000種類以上あり、その中の半数以上は放線菌が 生産するものである。現在、単離できている微生物は全体の1%程度と考えられており、単離できていない微生物を見つけることで新しい微生物由来の抗生物質を見出すことができると考えられ る。一般的な微生物単離では、寒天培地上のコロニーを目視で収集しているが、正確性は低く、 新しい抗生物質生産微生物を取り逃している可能性がある。そこで効率よく正確に放線菌を単離するため、単離前のコロニーの顕微鏡写真とともに、その後の成長パターンを全て記録し、機械学習による画像解析にかけることで、抗生物質を生産する放線菌とそれ以外の微生物を識別でき るのではないかと考えた。

<イチ推しポイント>
抗生物質を生産する菌を土壌から採取することができるという点で魅力を感じた。本研究で新規抗生物質を生産する微生物が見つかれば、今まで治らなかった病気などを治すことなどが期待できる。さらに、現在1%程度しか分離されていないとされる微生物を効率的に分離する方法を生み出すことができれば、未知の微生物を分離することが期待され、今後の医療に貢献できるというたくさんの可能性の秘めた研究である。

<O-06>
SARS-CoV-2の構造的特徴とその進化

代表研究者:木曽 夏海
共同研究者:井口 莉菜子、上野 美羽
所属:東京学芸大学附属国際中等教育学校

研究分野:04.生物、06.物理、09.医療

<要旨>
本研究では「Jmol」と「Cytoscape」を活用し、SARS-CoV-2 (以下SARS2)のフーリン様切断部位(以下FLC)の構造パターンと、ゲノムの系統的ネットワークを可視化した。結果から、SARS2には9つのFLCが存在することがわかり、それはネットワーク分析で明らかとなったSARS2の全世界で報告されたゲノムの中には9つのクラスターが存在するという事実と一致しているということが示された。

研究概要
私たちは始め、SARS2が私たちの日常に身近に潜む危険であること、そして未だ謎多きウイルスであることからそれに多大な興味を抱いていた。だが、それは専門的な知識や技術を要する一般人に時は手の届きづらい研究内容であると考えていた。だがそこで、JmolやCytoscapeのような無料プラットフォームを利用した研究であれば、SARS2のような一見研究が難しそうな内容でも研究可能なのではないかと考え、本研究を開始した。本研究を行うことで、COVID-19パンデミックのような大きな世界問題についての新発見ができるとともに、私たちのような高校生が行う小規模な研究の可能性を広げる。また、SARS2はコロナウイルス(以下CoV)の中でも最大規模のパンデミックを引き起こしていることから、私たちはそのFLC構造パターンが多く存在し、それが全世界のゲノムのクラスター拡大に多大に関係しているのではないかという仮説を立てた。

<イチ推しポイント>
私たちの研究テーマは現在世界で最も幅広い研究が行われているテーマであることから、私たちは多大な興味を持った。また、本研究には二つの大きな魅力が存在する。まず、研究方法が誰にでも使用可能なツールを使用した方法であり、それは高校生による研究の可能性を広げるものであるという点だ。さらに、本研究のテーマは現在最も話題となっている新型コロナウイルスについてであることから、多くの興味をそそる内容であると考えている。

<O-07>
松葉から分離した乳酸菌の可能性について

代表研究者:兵庫 未桜
共同研究者:塚本 悠里香、笹本 結妃
所属:静岡県立静岡農業高等学校

研究分野:04.生物、10.食料

<要旨>
目的:授業で得た知識を用いて松葉について研究、成果を基に商品開発、販売を行い、三保松原の環境保全を目指す。 仮説:様々な機能性を持ち、活用の幅が広いとして近年注目されている乳酸菌の単離を行い、商品に活用すれば付加価値のある特産物を製造できるのではないか。 結果:松葉から3種類の乳酸菌の単離に成功し、安全性、能力について検証できた。また、これらの乳酸菌を用いた食品製造を行った。 考察:海側の松葉から採取した乳酸菌は潮風に当たっているため、耐塩性に優れているのではないか。

研究概要
目的:食品科学や微生物利用の授業で得た知識を用いて松葉について研究、その成果を基に食品製造の授業の知識を用いて商品開発、販売を行い、自分達が暮らす地域の世界遺産である三保松原の環境保全を目指す。 背景:2013年に世界文化遺産に登録された三保松原では、枯れて落葉した松葉の処理に費用がかかり、地域の負担が重いことが問題になっている。また、地面の松葉を処理されないことにより富栄養化が進み、松枯れの進行が懸念されている(これにより約5万本あった松は約3万本に減少したとされる)。これらの問題を解決するため、松葉を活用した特産物を製作、販売を行い、利益を地域に還元することを目標に活動が始まった。 仮説:松葉を利用した製品を販売し、利益を地域に還元することができれば地域の負担が減少し、地域活性化につながるのではないか。

<イチ推しポイント>
興味を持った理由:高校入学当時行われていた松葉から分離した酵母の研究を見て、松葉から微生物が採取できることに驚き、自分でも研究活動がしたいと思った。また、自分が授業で得た知識を活用して身近な三保松原の環境保全に貢献できることが楽しいと感じた。 面白いこと:松葉から採取した微生物が三保松原の特産物になる可能性を秘めていること。

<O-08>
深層学習を用いたナスミス望遠鏡の方位・高度推定

代表研究者:カモンパット インタウォン
所属:茨城工業高等専門学校

研究分野:11.数理・情報科学

<要旨>
このプロジェクトは,最近注目されているディープラーニングの技術を用いたAIによる画像認識により,高倍率の望遠鏡の視野内の星像から,望遠鏡が天空のどこを向いているかを自動的に導き出す技術を開発することである。現段階では星座全体が写るほど広範囲(低倍率)のテストデータに写っている星座を,最高の平均精度が0.970で認識することに成功している。今後は,テストデータの倍率を上げて行き,天球座標系での座標を求めるシステムにステップアップするとともに,認識率を高く保つための条件を検討していく。

研究概要
ナスミス望遠鏡とは,望遠鏡の高度回転軸上に接眼部があり,接眼部の高さが観察する天体によらず一定であるため,車椅子の方にも安全に天体観測していただける望遠鏡である。そこで我々は「車椅子の人にも天文台級の望遠鏡での天体観測を」のコンセプトに,可搬型の40cmナスミス望遠鏡を開発している。既存の手動ナスミス望遠鏡を電動化し,自動導入や自動追尾をできるように改良した結果,まだ完全ではないが,実際の観測会では使えるレベルになり,実際に特別支援学校で天体観測会を実施している。 しかしこのシステムを使うとき,最低でも1回は星座ソフトとナスミス望遠鏡のアライメントが必要なのだが,ナスミス望遠鏡の視野が狭いため,狙った星を視野に入れることが大変難しく手間がかかる。そこで,望遠鏡の視野に見えている星の映像から,望遠鏡が天空のどこを向いているのかを自動的に判断するシステムの開発に取り組むこととした。そのための技術として,近年注目されているディープラーニング技術が使えるのではないかと考えた。

<イチ推しポイント>
開始のきっかけは、ナスミス式望遠鏡を用いた天体観測で直面している技術的な問題である。しかし開発するシステムはナスミス望遠鏡に限定することなく,全ての望遠鏡に用いることができる。最近の天体観測は目で望遠鏡を覗くのではなく,望遠鏡に取り付けたカメラの画像をPCで観察することが主流となってきており,私の開発したシステムを用いるのに好都合である。望遠鏡を空に向けるだけで望遠鏡がどこを向いているかが分かる。子供が親に買ってもらった望遠鏡を使いこなせずに使わなくなってしまうことがなくなるのです