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人類を孤独から解放する

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株式会社オリィ研究所 共同創設者 代表取締役 CEO 吉藤 健太朗氏

丸みを帯びたフォルム。能面のようで、どこか愛らしい表情。次第にその奥にいる人の姿が浮かんでくる。このコミュニケーションロボット「OriHime」を世に送り出したのは、株式会社オリィ研究所だ。代表取締役CEOの吉藤健太朗氏は、自身の不登校体験をもとにこの分身ロボットの開発に取り組んだ。

人々を蝕む「孤独」という現代病

孤独とは、自分が誰からも必要とされていないと感じ、辛さや苦しさに苛まれる状況のことだとオリィ研究所の吉藤氏は話す。病気やけがで学校に通えない子ども、ひとり暮らしの高齢者、ひきこもりの若者、外出する際に何らかの困難を伴う移動制約者。現代の日本では、何千万人という人が孤独という病に陥っている。鬱や認知症の原因になるともいわれており、イギリスでは、2018年に孤独担当大臣のポストが内閣に新設された。孤独は、確実に社会問題化しているのだ。

 

当たり前だったことができなくなる 

孤独の解決をミッションに掲げるオリィ研究所。代表である吉藤氏自身、深い孤独を感じた過去がある。小学校5年生の頃、不登校となって3年以上家にひきこもった。「しゃべること、笑うこと、でかけること。それまで当たり前にできていたことができなくなる。本当に辛かった」。自分の居場所がどこにもないような気がして、将来への不安で押しつぶされそうになる経験をした。

そんな吉藤氏を救ったのは、工業高校の教員だった恩師との出会いだ。ものづくりの楽しさを知り、のめり込んだ吉藤氏は、ロボットコンテストに参加して見事優勝。これがきっかけとなって、日常生活に戻ってきた。「人との出会いが人を変える。人と会うことは絶対にやめてはいけないのだと、私は思うのです」。そう話す彼が開発したのは、会いたい人に、会いに行ける分身ロボットだ。

現在日本には、病気やけがで学校に通えない子どもが4万人以上います。また、15歳〜39歳人口における広義のひきこもりの推計数は54万人、ひとり暮らしの高齢者は900万人という数に上ります。身体障害・高齢・育児などの理由で、外出する際に何らかの困難を伴う「移動制約者」は3,400万人を超えるというデータもあります。

 

もうひとりの自分と一緒に 

吉藤氏が開発したコミュニケーションロボット「OriHime」は、孤独の要因となる課題をテクノロジーで解決する。このロボットが提供する第一のソリューションは「移動」の制約を取り払うことだ。現代の社会では、移動することを前提に作られているサービスがほとんど。学校も、飲食店も、仕事も移動できないことを想定していない。「OriHime」を使うことで、身体的なバリアを抱える人でも、ベッドの上から友達や家族に会いに行くことができる。

また、「対話」へのハードルを下げる効果も見えてきている。足が不自由な人であっても車椅子に乗れば移動することは可能だ。しかしコミュニケーション力に対しては、いまだ効果的な処方箋がない。うまくしゃべれない、何を話せばいいか分からないといったコミュニケーション障害の問題を抱える人でも、「OriHime」を介することで緊張感をやわらげることができる。普段なかなか話せない人が饒舌になったり、ストレスを下げる効果があることがわかってきた。

彼らにとって、「OriHime」は自分ができないことをサポートしてくれるもうひとりの自分なのだ。

 

分身ロボットカフェでは、ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者が「OriHime-D」を使ってコーヒーの提供を行った。

世の中は何ひとつ完成していない 

精力的にプロダクトを世に送り出し続ける吉藤氏が現在力をいれるのは、「OriHime」による「役割」の提供だ。たとえ学校に、自分の机があったとしても、そこが自分の居場所だと思えなければ孤独であることに変わりはない。そこにいることに、何かしらの役割をデザインすることが必要だ。

オリィ研究所では、全長約120cmの分身ロボット「OriHime-D」を開発。自宅からテレワークで接客やものを運ぶなど、身体労働を伴う業務を可能にした。2020年1月にはALSなどの重度障害者が「OriHime-D」を使ってカフェ店員として働く、分身ロボットカフェを開催。社会参加の新しい形を実現しようとしている。

「自分にも、できることがあるんだと気づいた。世の中は何一つ完成していない。足りていない部分を埋めて補うのが仕事だ」と訴える吉藤氏。未完成な世の中だからこそ、未完成なわたしたちにも、きっとできることがある。

(文・中嶋香織)

※『教育応援 vol.46』から転載

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