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海とともにいきる

2020.10.08
海とともにいきる

2015年9月、国連サミット内で採択された持続可能な開発目標(SDGs)の中で「海の豊かさを守ろう」という目標が掲げられ、海と人との共生が世界の課題として捉えられるようになった。また日本ではそれに先立つ2007年に制定された海洋基本法に、学校教育及び社会教育における海洋に関する教育の推進に取り組むことが国の義務として明記されている。さらに2016年には、2025年までに全ての市町村で海洋教育が実践されることを目指す旨が日本政府より宣言された。 今後人類はどのように海と関わっていくべきなのか。何を学び、伝え、共に海と向き合うべきなのか。海洋教育の最前線を追った。

海洋立国を目指すための基本法

13億5000万㎦という途方もない量の海水が、一続きになって地球上の4分の3を巡り、1000万種を超える生命を育む巨大な環境、それが海である。古来から人間は食を中心として海の恵みを活用し、今日までの文化を築き上げた。しかし近代以降の急速な産業の発展は、海水温上昇や海面上昇、プラスチックごみの流出、海洋資源の減少など世界規模の課題を生み出している。

海洋基本法は、20世紀後半から大きく変化してきた海との関わり方について、模範的な行動指針を与えるために制定された。経済的な発展及び海洋と人類の共生をともに実現することを目的としており、それに向けて海との関わりを考えられる人材を育てることが海洋教育のカリキュラムを考えるにあたり重要となる。

海洋基本法に定める基本理念

  • 海洋の開発及び利用と海洋環境の保全との調和
  • 海洋の安全の確保
  • 海洋に関する科学的知見の充実
  • 海洋産業の健全な発展
  • 海洋の総合的管理
  • 海洋に関する国際的協調

世界に広がる海洋リテラシー

それでは具体的に、海洋教育ではどのような要素を学ぶことが重要とされているのか。国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)では、国連サミット内で採択された持続可能な開発目標(SDGs)を元に、以下の7つの要素をOcean Literacy(海洋リテラシー)としてまとめ、ユネスコ及びユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)を中心に、国際的な普及が推進されている。

この海洋リテラシーは、世界中の教育機関などに普及され、各国の文化に合わせた形で教育の中に溶け込み始めている。では、日本においてはどのような形で普及の動きが進んでいるのだろうか。日本においては、2007年に「21世紀の海洋教育に関するグランドデザイン」が、海洋政策研究財団(現:海洋政策研究所)より提言されていたが、具体的な動きには繋がっていなかった。しかし、2011年の東日本大震災を機に海洋教育の機運が高まり、2017年に行われた学習指導要領の改訂において小中学校の社会科で海洋・海事に関する記述が充実した。

UNESCO Ocean Literacy
7つの基本原理

  1. 地球には、多様な特徴を備えた巨大な一つの海洋がある
  2. 海洋と海洋生物が地球の特徴を形成する
  3. 海洋は気象と気候に大きな影響を与える
  4. 海洋が地球を生命生存可能な惑星にしている
  5. 海洋が豊かな生物多様性と生態系を支えている
  6. 海洋と人間は密接に結びついている
  7. 海洋の大部分は未知である

海とともに生きるための教育を考える

現在、ユネスコより発表された海洋リテラシーを参考に、日本型の海洋リテラシーの構築が、東京大学大学院教育学研究科に附属する海洋教育センターなどを中心に取り組まれている。四方八方が海に囲まれ、恩恵も災害も他国以上に受ける国だからこそ、日本ならではの生活や文化、歴史の視点を組み入れた海洋教育が必要だ。

海は広く、人類の生活と複雑に絡み合う巨大な資源である。そして私たちが地球に住み続ける限り、そこから離れることはないだろう。だからこそ、今一度多角的に海を識り、次世代へと引き継ぐための新しい教育を考えていかねばならないのだ。

(文・小玉悠然)

※『教育応援 vol.46』から転載