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強く環境に優しいプラスチック

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強く環境に優しいプラスチック

北陸先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 環境・エネルギー領域 教授 金子 達雄氏

ゴミを流出させないことが重要ではあるものの、流出してしまったゴミが自然に消えてなくなればいいのに…国内では2005年の愛知万博で使い捨て食器に生分解性プラスチックが使われて話題になったが、未だ十分に活用されているとはいえない。北陸先端科学技術大学院大学の金子氏は、高機能・高分解性プラスチックの開発により、この課題の解決を目指す。

生分解性プラスチックの代表「ポリ乳酸」の課題

生分解性プラスチックというと、トウモロコシ等を原料としているポリ乳酸が有名な素材だ。実際に愛知万博でも使われたが、その分解性には課題がある。通常、素材として使われる分子量が数万~数十万の状態では非常に安定で、高温多湿環境での加水分解により分子量1万程度にまで小さくならないと微生物による分解が行われないのだ。そのため、実は海洋環境などに流出すると、従来のプラスチックと同様に安定なゴミになってしまう。

この問題を考える際に難しいのが、材料として十分な耐熱性や強度を持ちつつ分解されやすいという、一見矛盾する性質が求められることだ。さらに社会に普及するためには、生産コストが低いことも重要な点になる。金子氏は、イタコン酸というカビによる発酵で作られる原料をもとにして、これらの要件を満たす新しいプラスチック材料を開発している。

 

カビから作れ、熱にも力にも強い
図1 イタコン酸由来のナイロン繊維

イタコン酸は、糖を原料として糸状菌の発酵により作られる天然分子だ。すでに食品添加物や、一部の化学製品の出発原料として、工業的に生産されている。金子氏は、このイタコン酸とジアミンを原料として高分子化したバイオナイロンの合成方法を開発した(図1)。このバイオナイロンは、これ以上温めると流動性が増す温度であるガラス転移温度が154℃もあり、60℃近辺のポリ乳酸や、衣服などに使われるナイロン6やナイロン6,6と比べて遥かに高い温度に耐えることができる。ポリ乳酸はガラス転移温度が低いため、例えば熱々の料理を盛るための皿などに使うには、別の材料を添加剤として加える必要がある。それに対してこのバイオナイロンは単体で非常に熱に強いのだ。

それだけでなく、電化製品やスーツケースのボディをはじめ様々な用途に使われるポリカーボネート樹脂に、強度面でも匹敵するほどの性能の高さを示す。引っ張る力には弱い(破断伸度が高くない)という弱点はあるものの、他の力学特性は高く、素材として有望な性質を持っているといえる。

 

自然な条件でほぼ分解

イタコン酸由来のバイオナイロンは、分解性の面でも非常に優秀な性質を示している。例えば水銀ランプを用いて、太陽光に含まれるUV-AやUV-Bを照射すると、6時間で分解することが分かっている(図2)。また、アルカリ性(pH7.5-7.9)土壌の深さ2-4cmの場所に1年間埋め立てると、ポリ乳酸では84%が残ったが、バイオナイロンはほぼ消失した(図3)。

この性質から、例えば畑で雑草発生や土壌流出を抑えるために使われるマルチに利用すれば、剥がす手間が不要になり農家の作業性向上に繋がるかもしれない。また、室内で使用するおもちゃの素材などにも使えるだろう。また金子氏はこの材料を別のプラスチックに添加して分解性を高めるというアイデアも持っており、今後の研究によってさらに用途が広がるはずだ。

図3 各種バイオナイロン及びポリ乳酸の土壌分解性
(一番左がポリ乳酸。2番目以降は、①エチレンジアミン②プロピレンジアミン③ブチレンジアミン④ペンタメチレンジアミンから合成したバイオナイロン)

 

バイオ由来プラスチックを社会に広げられるか

これまでに生産され、使われてきたプラスチック製品の多くは、石油を原料としている。それはもとを辿れば、数億年前の生物が太陽光のエネルギーとCO2から有機物を合成して体を作り、その死骸が長い時間をかけて変質したものである。つまり、数億年前の大気中のCO2を原料に、私たちの生活は支えられているのだ。イタコン酸由来ナイロンをはじめとしたバイオマスプラスチック開発は、この原料を現代の大気中のCO2に置き換えようという取り組みといえる。

とはいえ、様々な製品づくりの基幹ともいえる材料の置き換えは簡単ではない。性能だけでなく生産量やコスト、また安定供給のための体制づくりなども必要だ。実際、金子氏の試算によるとイタコン酸由来ナイロンの生産コストは従来品のナイロン6,6より少し高くなる(ナイロン66:860円/kg、イタコン酸由来ナイロン:970円/kg)。ゴミを減らし、気候変動を抑制して、人以外の生き物たちにとっても住みやすい地球を取り戻すために、少し高くても、環境に良い商品を手に取れるか。私たち一人ひとりの選択が、未来を創る鍵となるだろう。

 

※『教育応援 vol.47』から転載

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