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大海原の無人巡回パトロールで、地球の変化を観測せよ

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海洋研究開発機構
海域地震火山部門
地震津波予測研究開発センター
地震予測研究グループ

 グループリーダー 飯沼 卓史 さん

2011年3月に起きた東北地方太平洋沖地震から,10年。あのとき海の底では何が起こっていたのでしょうか。4つのプレートにまたがるように位置する日本列島は,海溝型巨大地震の脅威から逃れることはできません。

巨大地震発生のしくみを追って

地震について理解するためには,ゆっくりと,しかし確かに起きている地殻の動きを把握することが重要です。それによって地震発生時の規模や間隔を予想して,備えることができるのです。しかし,地震を発生させるプレート境界面があるのは陸から数十km以上も離れた海の底。陸上からではその詳細を捉えることができません。
この地殻変動の影響を調査するために,現在,日本列島の周辺には多数の観測点が設けられています。調査のためには,音響機器を取り付けた調査船で,海底に設置された観測機器の上まで移動して,海底に向かって音波を発射します。この音波が伝わる時間をもとに,調査船と海底の観測機器との距離を測るのです。
しかし,この場合,研究者が調査船に乗り込んで,1ヶ月近くも航海するケースもあるとJAM STECの飯沼さんは話します。「その間はデータ解 析を進められないし,船を動かすのに必要なコストも高い」。そこで現在,無人での観測システムの開発が世界各地で精力的に進められています。

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▲︎ 海観測航海終了後、回収されたウェーブグライダー。 前後にGNSSアンテナが搭載されている。

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▲︎ ウェーブグラ イダーの航跡図。G04観測点で投入し、G14観測点にて回収した。

波の力で,走れ!グライダー

無人観測システムのひとつであるウェーブグライダーは,波浪を推進力に変えて海上を自動自律 航行する観測機です。飯沼さんらは,2019年からこの無人海上観測機を使った試験観測をスタートしました。今回用いられたウェーブグライダーは,2007年頃に登場した第1世代機から改良が重ねられた第3世代機。航行や観測機器の運用に必要な電力は,搭載した太陽光パネルで自給することができます。燃料補給のために母船や港に戻 る必要がなく,長期間の運用が可能になるのです。
飯沼さんらは,このウェーブグライダーに1ヶ月程かけて14の観測点を巡回させ,船を用いる場合と同様に観測データを取得することができる かを確かめました。その結果,海底地殻変動を捉えるために十分なGNSS観測データ,機体の姿勢,音響測距データなどが,船を使ったときと同 じくらいの精度で取得できることを確認。また,そのデータ取得にかかるコストをなんと10分の1に抑えることができました。この方法ならば, これまでよりも頻繁に広い範囲を観測し,より詳細に地殻変動の様子をモニタリングしていくことが可能になるかもしれません。

ゆっくり変わる地球の姿

これまでの観測データを解析したところ,東北地方太平洋沖地震のあと長い時間をかけて,福島県〜茨城県の沖合の海底は東側に,宮城県の沖合の海底(地震時に大きく滑った領域の真上)は西側に向かってそれぞれゆっくりと動いていることがわかりました。地震の後におこるこのような地殻の動きは,余効変動(よこうへんどう)と呼ばれます。
「ゆっくりと変動する地球の変化を捉えるには,少なくとも3年間ぐらいは続けて観測しないとわからない。」と話す飯沼さん。地球を相手にした研究では,5年〜10年といった長期スパンで物事を考えていく必要があります。「東北地方太平洋沖地震についても,あのとき何が起きていたか,やっとわかってきたという感じがします」。現在のデータから過去の出来事を紐解くことができるのが,研究の醍醐味のひとつ。我々の地球に対する理解もゆっくりと,しかし確実に進んでいます。

(文・中嶋 香織)

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