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【someone vol.38】【サイエンストピックス】細胞融合でヒトと植物の垣根を超えろ

2017.03.17
【someone vol.38】【サイエンストピックス】細胞融合でヒトと植物の垣根を超えろ

ヒトと植物,まったく異種のこれらを融合できるなんて考えたことがあるでしょうか。2つ以上の細胞が融合すると,その融合細胞からは両方の遺伝子を引き継いだ特徴をもつ個体が生まれます。この特徴を活かして,地下部にポテト,地上部にトマトが実るポマトという新たな植物を人工的につくる試みなどがこれまで行われてきました。しかし,それぞれの望ましい特徴をうまく取り入れた個体をつくり出すことは簡単ではありません。そこで,大阪大学の和田直樹さんは,動物細胞で研究が進んでいる「人工染色体」の技術を, 植物の品種改良に活用できないかと考えました。人工染色体を使えば,一度に大量の遺伝子を自由に組み込むことができます。動物の培養細胞に植物の染色体を導入し,動物細胞内で遺伝子組換えを行い目的の遺伝子群をもった人工染色体をつくる。これを植物に導入し直せば,ねらい通りの品種改良ができるかもしれないのです。
そこでまずは,動物細胞内に異種である植物の染色体を安定に導入する必要があります。ヒトと植物の融合の試みは,じつは40年程前からありましたが,融合したあと増殖できる細胞まではつくられていませんでした。和田さんは,融合細胞だけを選抜する工夫として,植物の染色体が導入された細胞だけが蛍光を発して,抗生物質の存在する培地で生き残るように遺伝子を操作しました。さらに,細胞周期を分裂期に合わせるという融合しやすい条件を見つけ出しました。その結果,ヒトの細胞に植物の染色体の一部が組み込まれた,増殖できる部分融合細胞をつくることに成功したのです。
今回の研究成果から,遺伝子や細胞の構造さえ異なるヒトと植物の間でも染色体を安定的に維持するしくみ,そして遺伝子を働かせるしくみが共通していることがわかりました。現在は,工夫して効率を上げてようやく約100万個のうち1個 つくることができる融合細胞。さらに,異種の染色体を安定化させるしくみがわかれば,人工染色体を使った植物の品種改良もより効率的に行えるようになります。今後,動物細胞から生まれた新たな品種が現れるかもしれませんね。(文・井上 剛史)

取材協力:大阪大学 大学院工学研究科 特任助教 和田 直樹さん