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気がつかないくらいの「便利」をつくりたい 川原 圭博

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最近,コンピュータが搭載されたメガネや腕時計が現れ始めた。これからは,洋服や筆記用具まで,あらゆるものに搭載されるようになるだろう。これらのモノを使えば,おもしろそうな中吊り広告を指差すと詳細情報がスマートフォンにダウンロードされたりするようになるかもしれない。そんな未来がすぐそこまでせまっている。

モノが人をサポートする世界

東京大学の川原圭博さんは,コンピュータを搭載したモノがネットワークでつながり,人の生活を強くサポートする社会「ユビキタスコンピューティング」の実現を目指している。ユビキタスとは「いたるところに存在する」という意味だ。たとえば,最先端の自販機では,ジュースを買おうと前に立つと,おすすめ商品が示される。これは,自動販売機に搭載されたセンサが購入者の性別や年代を判別し,これに時間帯や気温などの条件を加えて選んだおすすめ商品を提示するのだ。このように,ネットワークにつながったモノが周囲の状況を判断し,適切な働きをする世の中になれば,人の生活はもっと豊かになるはずだ。

電気回路を「印刷」する

ユビキタスコンピューティングの実現には,コンピュータやセンサの試作品を安く早くつくって研究を加速することが重要だ。電子機器に必要な,電気回路が描かれた基板は,通常,工場でいくつもの工程を経て機械でつくられている。工場での生産は,同じものを大量につくるときには向いているが,研究室などで,さまざまなタイプの試作品を少しだけ,早くつくりたいときには向いていない。そこで,川原さんは,家庭用のインクジェットプリンタで回路基板を印刷できるようにならないかと考えたのだ。これまでにも電気を通す「インク」はあったが,プリンタではうまく使うことができなかったり,印刷するだけでは使えず追加の工程が必要になったりするものばかりだった。それらの課題を解決してくれる銀粒子の特殊なインクを使うことで,川原さんはプリンタでの回路の印刷を可能にしたのだ。この技術により,気軽に何度も試作ができ,研究の速度を上げることができる。

▲回路の印刷技術を使って川原さんが開発した土壌の水分量を測定するセンサ。

人と出会うことで新しい技術を生み出す

この回路の印刷技術は,ある出会いから生まれた。もともと川原さんは,今よりもずっと使いにくいインクを使って研究をしていた。その研究に目をめた製紙メーカーの開発者から,自分たちの開発したインクが使えないかと声がかかったのだ。その銀インクは,活用先がなく,会社の中で静かに眠っていた技術だった。それが先生の回路印刷の技術にぴったりはまったのだ。

「人と会うことで,研究のアイデアが生まれるんです」と川原さん。早速,その回路印刷技術を使って,土壌の水分量を測定するセンサを開発している。これも,農学系の研究者との出会いから生まれた。紙に印刷したセンサを土にし込むと,センサに蓄積される電気量の変化で土中の水分量を検知する。受信機に発信することもできるので,適切な水やりのタイミングをセンサが教えてくれるのだ。ある農場では,これまで適量と思っていた水量が,じつは与え過ぎであった,なんてこともわかってきている。

20年後のあたりまえをつくる

「芽を出したばかりの技術が広く使われるようになるのに,だいたい20年かかります」と川原さんは話す。回路印刷技術で,あらゆるものにコンピュータを搭載したとしても,どのように電源を確保するかなど,技術的な課題はまだたくさんある。技術を改善するだけではなく,技術と人をつなげて使い方を増やしていくことも必要だ。起業家たちとのコラボレーションにも積極的で,この技術で開発した製品をすでに世の中に送り出し始めている。川原さんは,さまざまな人と出会うことで,自ら生み出した技術を現実の世界で自らかたちにしていこうとしている。 (文・戸金 悠)

川原 圭博(かわはら よしひろ) プロフィール

2005年,東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程修了。博士(情報理工学)。大学院情報理工学系研究助手,助教を経て,2010年同講師,2013年より現職。また,2014年 よりAgIC株式会社技術アドバイザー。2014年よりJST さきがけ研究員。2015年より株式会社SenSprout 技術アドバイザー。

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