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知的好奇心を揺さぶり、社会で活躍する女性を育む

2021.07.12
知的好奇心を揺さぶり、社会で活躍する女性を育む
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VISIONARY SCHOOL

未来をつくる挑戦者

学校法人昭和女子大学が掲げる学園目標は「世の光となろう」。女性が自らの能力を存分に発揮して社会で活躍することを目指し、キャリア教育とグローバル教育に力を入れてきた。昭和女子大学附属昭和中学校・高等学校では、2018年度から独自にスーパーサイエンスコースをスタートさせている。

プロフェッショナルとしての女性を育てる学園

中嶋 : 真下校長から見て昭和女子が今後向かう先とはどのようなものでしょう?

真下 : 18歳人口がこれから激減しますが、そのときどうするかを考えた上で、理数系、データサイエンスを学ぶように発信しています。エビデンスの伴わない仕事は文理問わずないし、データ活用スキルは社会人として絶対必要になると考えているからです。

中嶋 :「 女性はサポートで良い」といった旧来的な価値観から転換していっています。

真下 : はい。自分自身、女子校・女子大出身ですが、どんどん前に出て行きなさいと言われて育ちました。これから労働人口が減っていくなかで女性がバリバリ働く時代になります。

中嶋 : 自立して自分でやれる力を持った人を育んでいくわけですね。

真下 : 女の子だから「無理しなくていい」とか女の子だから「これくらいでいい」ということは言わないようにしてほしいと教員にも伝えています。教員は子どもたちのいいところをどんどん伸ばす仕事をしなくては。子どもたちは、それぞれいいところを持っているのに、周りの大人を見てそれをどこまで外に出すか制御していると思うんです。

中嶋 : そうですね。私たちがちょっと難しいかなと思うようなことでも、子どもたちは一回その気になると必要な情報を自ら取りにいって、驚くほどのスピードで吸収し、行動できるようになります。

真下 : そういった様子をみていると、学校教育の仕事は生徒により多くのチャンスを与えることなのだと思うのです。

生徒ひとりひとりに、目覚めの瞬間を

中嶋 : そのように考えるようになったきっかけは、先生ご自身の経験にもあるのでしょうか?

真下 : 高校の生物の授業で、植物の光合成のしくみで一番大切なのは「太陽」だと先生に言われて、「へー!」と思ったことを覚えています。その後、発生の単元を学んだときには、なんで一個の受精卵が違うものに変化していって、しかも元に戻らないのか?という生命の神秘に感動しました。生物ってただ暗記するだけの教科じゃないんだと目が覚めました。

中嶋 : たったひとつの細胞がどんどん分裂して人の全身を構成し、複雑な生命機能を維持できるようになる。不思議ですよね。

真下 : その不思議に魅了されて、大学では生物学の研究を選びました。

中嶋 : 私も、似た経験があります。高校の担任の先生が、あるとき青いバラの話をしてくれたんです。バラは元来青色色素を持たないので自然交配では絶対に青くならないのですが、バイオテクノロジーを駆使して不可能と言われた青いバラを咲かせる研究が進められているんだと。それから図書館でバイオテクノロジーに関する本を片っ端から借りて読んで、研究の道に進んだ。その話を聞く前日までは、公務員になろうと思っていたのに。

真下 : それって外からの働きかけがなかったら、なかなか自分ではたどり着けないですよね。

中嶋 : はい。私にとってはすごく心を揺さぶられた瞬間だったんですね。でも、同じ刺激を与えられても、「ふーん、そうなんだ」と思っておしまいになる子もいる。そういうきっかけを与え続けるしかないんでしょうね。

真下 : 昨日仕入れたばかりの自分が面白いと思った情報を、子どもたちに伝える。そういうことを繰り返しています。

中嶋 : 一部食いついてくる子がいて、その子にさらに情報を与えることで学びを深められるんです。

一番近くで寄り添う存在

真下 : そういう意味でも、やはり子どもたちに変化を起こす一番効果的な方法は、現場の先生が生徒をエンカレッジすることだと思います。
教員面談では1on1で先生の一番得意なことを聞いているんです。単純な教科指導のうまさではなく、元々何か得意なことや好きなこと、熱意を持っている人。それがいい先生で、それこそが学校の力になっていくと思うんです。

中嶋 : リバネスの実験教室も同じですね。単なる知識をインプットするだけなら一番上手に話せる講師が一人いればいい。そうではなく、常に最新の研究を知っている人が、毎回オリジナルの切り口で話すようにしています。講師によって面白いと思うことが違っているから、たとえ実験の題材が同じでも違うテーマの実験教室ができあがる。そうすることで、より多くの生徒たちの興味を捉えることができると思うのです。

真下 : 学校では先生自体は同じですが、授業の導入でトピックスを差し込むようにしています。その繰り返しの中でより多くの生徒の興味関心を惹きつけます。

中嶋 : それがきっかけになって、科学や研究活動にのめり込む生徒が出てくるとうれしいですね。

真下 : はい。本校では様々なサイエンスプログラムを実践していますが、まだ足りない。たとえば、テーマを設定させても研究の視点が発散していることも多いように思います。

中嶋 : なるほど。私も毎年100件以上の中高生の課題研究テーマに目を通していますが、具体性に欠けるテーマも一定の割合で目にします。SDGs等もニュースでよく耳にするようになって、地球規模の壮大なテーマを持ってきてくれるんですね。

真下 : そうすると研究までつなげるのが難しい。まずは基礎となる研究の考え方やスキルをトレーニングしていけるといいですね。その後に自分のオリジナルの問いを見つけるということをやってみたいと思っています。

中嶋 : 私は、生徒らがテーマを決めるときには一番好きなもの、興味のあるものを題材にするのが大切だと感じています。好きなことっていうのは自然と情報を集めようとするし、調べものするのも苦にならない。結果としてインプットも多くなります。

真下 : インプットがなければ結局のところ何も語れません。

中嶋 : その通りです。それによって着眼点が思考が深まるのだと思います。どんなに研究題材として優れたテーマでも、本人が好きじゃないものはテーマにしません。自分の興味や関心がどこにあるのか、実験体験などである程度知ってもらってから本当に取り組むテーマを決めるようにしています。

真下 : 一歩踏み出そうとしている子の興味・関心を対話のなかで引き出して、整理して、そこへ手を差し伸べる。

中嶋 : そして勢いを与えて、伴走できるメンターが必要です。

真下 : 絶対に必要ですね。

世代を超えた学びの循環を生み出す

真下 : 以前、中学生が附属小学校や幼稚園生の興味・関心の整理をやってみたことがあるんです。大学生などからメンタリングしてもらった経験を踏まえて、今度は自分が後輩たちにメンタリングすることで、学びが深まるという仕組みです。

中嶋 : リバネスの次世代向けの研究支援プログラムでは大学院生のメンターがついて研究のサポートをします。中高生の時、メンタリングを受けてプログラムを巣立った生徒が今度はメンターとしてプログラムを支えてくれている例も増えてきました。

真下 : 年齢の近いメンターの価値は非常に大きいですね。SSHの研究報告でもメンターの役割が大きいとわかってきています。

中嶋 : 生徒の一番近くで、一番たくさん会話をするのがメンター。メンターが生徒との関わりを通して生徒を変える。年齢が近いので身近なロールモデルでもあります。

真下 : そういう循環を生み出していくことが必要ですね。

中嶋 : 昭和学園には認定こども園から大学院まであります。学園の中で循環を回せるのは強みになりそうです。

女子校から発信する女の子の可能性

中嶋 : 真下先生は、高校生物をきっかけに湧き上がった生物学への興味を、今度は伝える立場になったわけですよね。

真下 : はい。最初は自分が現場に立って生徒に自身の興味関心を伝えていたのですが、そういった手法を教員に伝えたほうが結果的にはより多くの子どもに考えを伝えられると気づいたんです。

中嶋 : その後立場が変わるなかで、ご活躍の幅も広がっていますね。今は女の子の進路選択の幅を広げる取り組みに力をいれていきたいということですが、転機となった経験は何でしたか?

真下 : 川越女子高等学校に在籍した際に、生徒の可能性を伸ばしていきたいと思ってSSHの取り組みをスタートさせたんです。そこで、理系の力が伸びることで女子生徒たちの進路選択の幅が広がるのを目の当たりにしました。

中嶋 : 進路選択って一般的には消去法で徐々に狭まっていくものだと思いますが、そのときは逆だったわけですか。

真下 : そうです。昭和女子でも2018年からスーパーサイエンスコースを新設し、今後さらに新しい挑戦をしていきたいと思っています。女子校勤務はもう5校目になりますね。

中嶋 : 真下先生は、女子校という存在は今後どうなっていくと思われますか?

真下 : ジェンダーギャップ、女性に対するガラスの天井とか、「私なんて」というような女性側の意識がある限り女子校の存在意義はあると考えています。他の女子校の校長先生と「なぜ女子校がよいのか?」という議論をしたんですが、女の子の可能性は共学よりも女子校のほうが広がると感じています。

中嶋 : そのための色々な仕掛けを増やしていく。直近で特に力を入れている取り組みはなんでしょう?

真下 : 今は、プログラミングのカリキュラムをオープンソース化しようとしています。それを自分の学校だけではなく、女の子の理科的な力を育てる仕組みに発展させていければと思います。パッケージ化してみんなが使えるようにしていきたいです。

中嶋 : それは非常に意義がありますね。いろんな人の知恵が入ることで、自分の学校だけではできないことにも挑戦できるようになる。

真下 : 一部のトップだけではなく全部を底上げすることにもつながると思っています。多くの人と連携しながら、日本の子ども達を育てていきたいですね。

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真下 峯子(ましも・みねこ)

昭和女子大学附属昭和中学校・高等学校長(初等部兼任)

奈良女子大学理学部卒業。埼玉県の県立高校で理科・生物教育に取り組み、男子校での勤務も経験。県教委、県立学校教頭・校長を経て、2019年度まで大妻嵐山中学校高等学校長、咋年度から現職。今年度は初等部校長も兼任。特に女性の社会での活躍の場を広げることを目指して、女子生徒の理系進路選択、プログラミング教育推進などを含めたSTEAM教育推進に取り組んでいる。

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中嶋 香織( なかしま・かおり)

株式会社リバネス 教育開発事業部
小中学生のための研究所 NEST Lab. 所長

リバネス研究開発事業部を経て2018年11月より教育開発事業部に席を移し、次世代研究者の育成と実践的な研究活動を通した教育効果の実証に注力する。持続可能な次世代研究者の発掘育成プラットフォームの構築を進める。JSTジュニアドクター育成塾採択事業NESTプロジェクト シニアメンター。